うさぎがいない……-3
「よっ、今帰りかよ」
「あ……うん、掃除当番だったから……」
「それ、嘘だよな、ホントはヒロミに押し付けられたんだろ?」
下校途中、ケンタに呼び止められた。
ケンタの言う通り、掃除当番はヒロミに押し付けられたのだ。
『ごめん、今日はスイミングなの、今度代わるから』……そう言って押し付けてくるのだが、桃子が頼んでもなんだかんだと理由を付けて断るばかりで代わってくれたためしはない、それにスイミングには掃除当番を終えてからでも十分に間に合うのも知っている、おやつでも食べてから行きたいだけなのだ……だが、ヒロミはクラスの活発な女子グループのリーダーみたいな感じになっている、断れば体育の時なんかにあからさまにバカにされたり嫌がらせされたりするだけ……。
「嫌なことは嫌って言った方がいいぜ、キリがねぇからな」
「……うん……」
その通りだと思う、だけどその勇気が出ない。
いつも面倒なことを押し付けられて、ため息をつきたいのを我慢してにっこりしてしまう……いつの間にかそれが桃子の処世術になってしまっている、うまく立ち回るための処世術ではなく、いじめられないためだけの……。
「だけどさ……桃子ってホントにおっぱい出て来てるのな、Tシャツの上からでも膨らんでるのわかるし、ポッチもわかるぜ」
それは毎朝鏡を見る時に自分でも気づいていた、胸を手で覆って隠したくなる、だがそれも不自然だし、『ジロジロ見ないでよ』などとも言い返せない……。
「あ〜あ、さっき止めなきゃ良かったな、だって桃子のおっぱいってさ、大きいだけじゃなくて形も良くねぇ? あ〜あ、損したなぁ、見損なっちまった」
ケンタは軽い調子でそう言っただけだが、かっと顔が赤くなるのを感じた。
(どうなんだろう……からかわれてるのかな、それとも……)
しばらく押し黙っていたが、桃とは勇気を振り絞って言った。
「それ、からかってるの? それとも本気なの?」
まさか聞き返されるとは思っていなかったのだろう、ケンタはちょっと言葉に詰まっていたが……。
「マジ……だよ、女子のおっぱい見たくねぇやつなんていねぇんじゃねぇ?」
「そうなんだ……」
ちょっとの間、会話が途切れた。
(本気でそう言ってくれるならちょっとくらい見せてあげても……)
桃子の胸の内はもやもやと乱れていた……。