処女-5
落ち込む美琴に心の中でニヤリと笑う浜野は最後に追い打ちをかける。
「それに…美琴ちゃん、ピンクモアールつけた?」
「つ、つけてません…。」
「そこが問題なんだよ。つけた気持ちも分からないで他人に伝えられるのかな?」
「す、すみません…でも…」
「貴重なピンクモアールを使わせてって言うのに気が引けた?」
「あ…はい…」
美琴の言う事を予め予想していたかのような浜野にグウの音も出なかった美琴。
「会社は前向きに仕事をしようとしている人間に協力は惜しまないもんだよ。つけてみないとつけている人間の気持ちが分からないので貸して下さい、そう言うだけでいいんだよ。その後に前向きになるが後ろ向きになるかはそんな簡単な事で決まるんだよ。ちょっと勇気を出すだけで美琴ちゃんの人生は大きく変わるんだ。美琴ちゃん?そのカッコ、恥ずかしい?」
「は、はい…。恥ずかしいです…」
「視線が気になる?」
「はい…」
「男に注目されるのは嫌い?」
「嫌いではないですが…私みたいに地味な女…」
「美琴ちゃんを地味にしてるのは自分自身だよ。」
「えっ?」
「美琴ちゃんが恥ずかしがってオドオドしてるから地味な女が無理してる感が出ちゃうんだよ。もし堂々としたなら、その時点で美琴ちゃんはいい女になるよ。」
「で、でも…とても堂々とは…」
「その為のピンクモアールじゃないか!」
「あ…」
「ピンクモアールは男に見られる喜びを与えてくれる。男を振り向かせる力があるんだよ。その姿勢が多ければ多いほど、美琴ちゃんの自信は深まって行くんだよ。もともとピンクモアールは美琴ちゃんみたいな女子を応援する香水なんだ。美琴ちゃんがピンクモアールを使って、そこで得た喜びを伝えられるようになったらもう立派なセールスだよ。保証する。ほら、使ってごらん?今から美琴ちゃんの人生が変わるから。」
「はい…」
浜野の言葉の魔力に取り憑かれたかのようにピンクモアールを手にする琴乃。
「私の人生が変わる…」
まるで平成から令和に年号が変わる程の歴史的な瞬間に思えて来た。暫くピンクモアールを見つめた後、いよいよ美琴はピンクモアールを自分の首筋にかけてみたのであった。
「あ…いい匂い…」
目を閉じ至福の表情を浮かべた美琴。極上の匂いに囲まれてふわふわと宙を浮いているような心地よさを感じた。
「俺、食らっちゃったかな…、早速。」
「え?」
美琴が目を開けると、先ほどまでとは違い、男を丸出しした視線で見つめてくる浜野に心臓がドキッとした。しかしその視線に体の奥がブルッと震えた美琴であった。
「いい女だ…美琴。」
「え…あ…」
呼び捨てにされドキドキした。つけた瞬間、浜野がこれほどまでに豹変した事に、自分に女子力が不足していてもピンクモアールがあればそれを補って足りるだけの力は十分にあるのではないかと思った。
(ピンクモアールって…凄い…)
実際に体験して美琴はピンクモアールの効果を信用していくのであった。