投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

よだかの星に微笑みを(第三部)
【SF 官能小説】

よだかの星に微笑みを(第三部)の最初へ よだかの星に微笑みを(第三部) 16 よだかの星に微笑みを(第三部) 18 よだかの星に微笑みを(第三部)の最後へ

日々迷いつつ-3

面談では、改造されてから俺が思ってきた事を適当に並べて話したが、教授に案外褒められた。
四年生にもなると、取る授業が重ならない関係で、伊月にも渡部にも滅多に会わない。
空き時間に俺は図書館へ入った。
「よだかは実にみにくい鳥です。」
『よだかの星』の冒頭の一節だ。読んで自分の事を言われた気がした。マリエにいろいろ聞いた内容も、要は自分で疑問に感じながら答えの出せない事だった。
「遊びをせんとや生まれけん、か。」
梁塵秘抄に有名な歌がある。俺も遊んで暮らしたい。うまいものを飲み食いし、楽に毎日を過ごしたい。だが、そういう暮らしは他者の苦しみを土台として初めて成り立つ。今でさえ、こんな事をしていていいのかと、組織などに関係してから、しばしば思うようになった。
「機械論て、いいかもな。」
生物を含めた世界全体は、機械のように、それぞれの性質を働かせてできあがっている。心も機能に過ぎない。感情を作る物質まで解明されているらしく、精神医学の薬物療法に用いられて久しい。生物を構成するのは遺伝子。物質は素粒子。
その考えを突き詰めれば、人生にも命にも価値などなく、どうなっても良い理屈になる。カブトムシ岡田がいつか言っていたスターリン的発言の「死ねばいなくなる」も、単なる事実だ。強い者が好き勝手にやって、満足して死んで行くのがベストの世界観。OHFがこれに近いだろう。
ひょっとして、俺なら世界の支配者になれるのじゃないだろうか。突如、真面目にそういう考えが浮かんだ。改造人間の力を俺がフルに発揮できたらどうだ。
「でも小学校の生き物係で金魚の世話もできなかったし、高校の時、級長にさせられて酷い目に遭ったからな。強くても一人だったり統率力がないのはだめだ。スターリンにはなれんわ。」
卒論に全然集中できない。マリエのせいだ。
「よだかは、実にみにくい鳥です。」
そもそも、卒論なんて書く意味があるのだろうかと、俺は根本的な所に疑いを持ち始めた。
「卒業するために書くなんてつまらない理由じゃなくて、どうせ書くなら、自分の考えを深めるための機会にしたいな。」
その志に辿り着いて満足した俺は、何も本は借りず、図書館を後にした。


よだかの星に微笑みを(第三部)の最初へ よだかの星に微笑みを(第三部) 16 よだかの星に微笑みを(第三部) 18 よだかの星に微笑みを(第三部)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前