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よだかの星に微笑みを(第三部)
【SF 官能小説】

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日々迷いつつ-2

地下鉄に乗る。せわしなく乗り降りする雑多な人々。みんな一人一人、用事があり、何かを予定している。これだけの人数が、全員違うことを考えている。世界に目を向けるなら、一体何億人がそれぞれの考えを持っていることか。
「民意なんて存在するんだろうか。」
思わず口に出して呟いたら、隣に立っていた年配の女性が振り向いた。
「あ、すみません。独り言です。」
女性は笑って
「ご縁ですから、どうぞ。」
パンフレットを手渡された。曰く、
「聖書のみことばを学び、神の王国を実現しよう!」
やはり、民意などでなく、もっと高いところからの意思を感じて、人々がそれを共通に持つのでなければ、人が、もしくは世界が同じ方向に向かって行くことはできないのじゃないだろうか。
だが、それは何だろう。宗教は対立しているし、事実を究明する学問でさえ、学者間には派閥がある。
「聖書って言われてもな。」
パンフレットにひと通り、俺は目を通してみた。旧約聖書は読んだことがない。雅歌だけは少し知っていた。なかなか官能的な、いい雰囲気の詩がたくさんある。神話の時代か。そう言えば、十戒って聞いたことあるな。人が作ったのでない掟。同じ方向を向かざるを得ない力。
乗り過ごしてしまった。
一駅だけで済んでよかった。講義には時間がまだあったし、歩いて行っても間に合う。俺は乗り過ごした駅で地下鉄を降りた。
ポリアンナの中学校がある地区だ。初めて会ったとき以来、行ったことは無い。特に用事がある訳でもなかったが、俺は前を通ってみる事にした。
今は一時間目の授業中だろう。ポリアンナに通信はできないなと思った。
「おはよう、まんこ男。」
後ろから声を掛けられたので、振り向いたらマリエがいた。
「おはよう。いかにも不良らしく遅刻ですか。」
以前だったら怖くてこんな事はマリエに言えなかっただろう。一年のあいだに俺たちの関係は変わっていた。しかし、顔を合わせるのも一年ぶりだ。
「三年生になってからは真面目にしてる。今日は生理痛だ。嘘だと思うなら確かめてみろ。」
「やだよ。気持ち悪い。」
「失礼な。やっぱり女の敵だな。学校に何の用?」
「寄っただけ。」
「敵はどうなった? って、お前がここにいるなら、治ったってことか。残念だ。」
俺はそこには触れず
「ナースチャは?」
「まだ意識もない。腕は戻った。あんな子供を戦わせるなんて、東欧教区はおかしい。」
「そうでもないよ。相討ちだった。」
「相討ちなのはお前が敵を助けたからだ。お前は戦闘中何してたんだ? 」
「見物。」
「価値のない奴。あー、生理痛がひどくなってきた。」
「あんたは何で組織に入ったんだ? 中学生だろ?」
「・・・うちの親戚は犬を食う。韓国の田舎だ。向こうじゃ普通のことだけど。犬はあたしに馴れていた。犬は殴られたあと、熱湯に入れられて、そしたら目が覚めて、訳もわからずあたしに尻尾を振ったんだ。最期まで人を信頼してたんだ。」
マリエの目に涙が一杯になっていた。涙は溢れて、マリエは本当に泣き出した。
「自分がベジタリアンになればいい話じゃないか。家畜飼って生活してる人を巻き込むのか。」
「それじゃ何にも変わらない。世界中、毎日いろんな生き物があんな目に遭っているんだ。問題はそこだ。」
「地道に活動してる動物の権利団体だってあるだろ。」
「世の中が変わるまでに何匹苦しむんだ?」
「ポリアンナ虐めておいて、よく言うよ。悪いけど。」
「あいつは、肉がないのはオカズがないのと同じだとか言ったり、毛皮のマフラーを貰ったとか自慢してたんで、気に入らなかったんだ。」
「動物の権利とか言いながら、他は好き勝手してるんじゃ、納得いかないよ。」
「別に好き勝手してるんじゃない。でも、もういい。お前と話してても仕方ない。ナプキン替えたいから、じゃあな。」
マリエは校門に入っていった。
「組織に入るきっかけに私怨が多いのかな。」
高橋先輩にも、何か事情が有るのだろうと俺は思いやった。


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