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よだかの星に微笑みを(第三部)
【SF 官能小説】

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それぞれ勝手に-1

四月になった。ついに四年生だ。もう、経済学部の連中はとっくに就職活動を始めていた。
「学生の本分は勉強や。就職活動なんかする暇あるか。」
「俺も今からする気は無いな。せいぜい夏休みだろ。」
本気でいきり立つ渡部と伊月を前に、俺は
「何より、したい仕事がねえよ。どこでもいいわけじゃないし、有名どころ紹介されても、やる気もないし。」
「昔から文学部は負け組に相場が決まっとるわ。」
渡部の意見に伊月が
「それも情けねえな。福沢諭吉の学問のすすめの頃から、言われてること、変わらねえじゃねえか。」
「俺なんか、戦後の仕事もない時代にいたら、どうなってたんだろうなと思うよ。」
俺が呟くと渡部は
「日雇いで、マッチ売りの少女に全額注ぎ込んどったんちゃう?」
伊月も
「お前、既に中学生にマッチ売らせてねえだろうな。」
ふと、リアルにその様子が思い浮かんだ。ポリアンナなら、やってくれそうだとまで考えた。
「それ、一種のヒモ生活だよな。いつか、やる羽目になったらどうしよう。あーあ、未来は見えないな。伊月、ひいなさんは実家に就職するのか? だったらお前も入れてもらえば?」
「まあ、聞いてないけど、誘われたら断る理由もねえよな。人の世話にはならないとか、そんな反骨精神に満ちてるわけじゃないし。」
結構、二人の仲は良いのじゃないかと想像しつつも俺は
「それもヒモに近い。そう言えば、渡部、お前こそヒモになれるじゃないか。蘭が学費から何から全部出してくれるだろ。実質的にヒモになれないのは俺だけだ!」
「今までさんざん金払っといて、今度は貰うんかい。まあ、俺らは白樺派か余裕派、お前はプロレタリア作家ちゅうところか。」
「結局、俺は共産主義かよ。」
女子連は今日はいなかった。ひいなさんは演劇、アンカと蘭は、それぞれ組織の活動だ。蘭は職場で男を感染させているだろう。危ない改造人間で、炭疽菌なんかも出せるらしい。アンカは、生類解放戦線のアジト潰しだと言っていた。その件で組織から俺に声が掛からない事だけを俺はひねもす願っていた。
人は人、俺は俺。自分に直接関係ないところで、誰が何をしていようとも、放っておく。又は、何もできないとして、割り切る。ほとんどの人間はそうやって平和に暮らしている。
納得のいかない感はあっても、事実上そうなる。無関心、放任もまた平和の技術だ。少なくとも表面的には。


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