の-8
「・・・今日は羽織ってろよ」
「ううん。大丈夫」
そう言って脱いで渡したジャケットを、白木は手にとってもう一度私の肩にかけた。
胸元をキュッと握りしめて
「羽織ってろ」
ほんの少し言葉が強くなる。
「そのジャケット、どう見ても男物だから。
俺が行かない飲み会でけん制になるだろ」
「そこまでしなきゃいけない訳?」
自分は乃恵と楽しそうに話してるくせに!
「俺の彼女ってオンナが薄着で他の男と飲むのはいやなんだよ」
「何それ」
「オンナのお前にはその気持ち分からないよ」
本当に全く分らないんですけどっ!
「あと・・・今後はこんな恰好で飲みに行くなよ?」
何それ。どんな独占欲よ。
「駅まで送るよ」
それは、食堂やカフェの中でもない道端で。
誰にも聞かせる必要のない時なのに・・・
なに、言っちゃってんの?
「白木?今誰も聞いてないよ?」
「分かってるよ。駅に送るぐらいいいだろ」
何それ・・・誰も見てないんだから彼女みたいな扱いしなくていいのに。
「大丈夫!乃恵の幹事のお手伝いをしてあげて」
「ん?平気だろ。ひとりじゃないって言ってたし」
ううん。私を駅に送るより乃恵と一緒に居たいでしょ。
好きな人の・・・そばにいたい気持ちは私が1番良く分かるから。
「じゃぁ、コーヒーごちそうさまでした」
そう言って、駆け足で駅まで向かう私の背中に
「明日な」
と声が届いた。