女体妖しく夢現（ゆめうつつ）-9
（９）
（女はいいものだ……）
１７歳になった私は亜弥奈の『男』になっていた。
「ああ、いいわ。さとくん」
女陰をじっくり舐めるとシーツを掴んで体をくねらせる。
「すごくいい……じょうずになったわ……感じるう……いっちゃう」
感度のいい女だった。それに可愛い。容姿といいより私に従うことが可愛かった。
「亜弥奈って呼んで」
「亜弥奈……」
「うれしい」
だが亜弥奈のいいところは私を束縛しないことだった。自分が男にしたと思い込んでいながら、『少年』を弄ぶこともしない。セックスの主導を握って自らを満たそうとはしなかった。私を『男』として認め、甘え、しかし執拗な要求はしなかった。すべてを私に委ね、指示に従う女であった。
この頃からときおり亜弥奈のマンションに泊まるようになった。
「汚い部屋でしょう？」
築数十年の古いマンションである。
「ここだと安心だから……」
私の部屋だと落ち着かないというのだった。
「もし、ママが帰ってきたら……」
「大丈夫だって……」
だが１度、マナミとセックスしている最中に母親が来たことはあった。おそらく何か忘れ物を取りに来たのだろう。２階には上がらずにすぐに出て行ったが、たしかに危険がないとはいえない。
泊まる日は土曜日、朝、遅めに起きると食事ができている。
「おはよう。パンだけどいい？ごはんがよければチンすればできるけど」
「亜弥奈」
私が手を伸ばすと亜弥奈は嬉しそうにやってくる。
布団をはだけるとペニスは勢いで勃起している。
「いただきます」
亜弥奈は飲み込むように含んでうっとりとしながら舐める。昨夜のセックスの燻りが残っていて、抑えた昂奮といった柔らかな快感が体に満ちてくる。私が感じる休日の朝の独特の感覚だった。
しばらく味わったあと、起き上がると亜弥奈はパンツを脱いで屈み込んで尻を突き出す。この時も嬉しそうだ。
（後ろから……）
なぜかそうしたくなるのも休日の朝だ。理由は自分でもよくわからない。性器や乳房への愛撫はせず、割れ目に充血した亀頭を宛がう。すでに愛液は滲んでいて裂け目から垂れるほどに溢れている。
押し込むとぬるりと食い込み、根元まで納まった。
「あうん」
亜弥奈がアシカみたいな声を出す。私はゆっくりと、しかも一定の出し入れを開始する。
「ああ、あう、ああ……」
幹にべっとりと液がまみれ、滑らかな抜き差しだ。それだけに快感もじわっと高まってくる。
「ああいい、さとくん、いいよ、いいよ」
ときおり、動きを止める。すると亜弥奈が引き継ぐように前後に動き出す。
（気持ちいい……）
大きな白い、まるい尻にペニスが出たり入ったり、それを見下ろす。自分で動きながら亜弥奈は悶える。
「亜弥奈」
「ああん」
名を呼ぶとさらに反応する。
「亜弥奈、いいよ、いいよ」
「あああ」
私も合わせて突き出す。尻に当たってパンパンと音が響き、次第に速くなっていく。
やがて亜弥奈は絶頂に向かい、私は打ち付ける。
「くうくうくう」
パンパンパン。
「イク、イク、イッちゃう！」
伸びたようにうつ伏せになった亜弥奈の息が聴こえる。体はやや太めだがむっちりとして肉感的である。
私が風呂場へ向かうと亜弥奈はむっくり起き上がってついてくる。『イッタ』あとの気だるさを引き摺るように……。
シャワーを浴びる。亜弥奈は跪いてペニスを洗いフェラチオが始まる。亜弥奈のマンションに泊まった時の習慣になっていた。
亜弥奈が絶頂に崩れ、私は耐えて放出はしていない。ペニスはギンギンに勃ったまま、亜弥奈は愛しみながら『私』にむしゃぶりつく。
「ありがとう、あたしのさとくん」
舐めて、扱いて、変化は多彩である。亜弥奈は私を『イカせる』ことに夢中になる。目を閉じて一心に咥えた顔を見下ろすのが私は好きだった。縋っている……尽くしている……酔いしれている……。一途さが胸を打つことすらあった。
昼過ぎ、彼女の部屋を出る。
「はい、これ」
私の手にお金を握らせる。
「ありがとう……」
１万円の時もあり、５千円だったり、３千円のこともあり、私は複雑な想いを抱くこともあった。
（楽じゃないんだな……）
ひねた高校生になっていた。
亜弥奈との関係はそれから１年近く続いた。どっぷりセックスに浸かった期間だった。私が主導の関係で満足していたはずなのに、終わってみるとマナミよりももっとどろどろの粘着質を感じる疲れが残った。
（女を引き摺っていくのは……）
疲れる……。実際にはそんな悟ったようなことを感じたわけではなかったが、疲れはたしかに感じた。
亜弥奈が消えたきっかけは店にある。母の店が売春斡旋の疑いで摘発され、ホステスの数名と客が逮捕されたのだ。母も元締めとして取り調べを受け、不起訴になったものの店は閉めることとなった。
亜弥奈はその騒動の合間にいなくなった。売春をしていたとは思えない。なにか負い目があったのだろうか。わからない。マンションに行ってみたがすでに引っ越したあとだった。後日、マンションは建て替えのため、だいぶ前から退去の話が進んでいたことを知った。