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1.女体妖しく夢現(ゆめうつつ)
【その他 官能小説】

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女体妖しく夢現(ゆめうつつ)-10

(10)

 店は閉店したが、私は2階にそのまま住むことになった。土地も家屋も母の名義である。売却の話も出たが、結局とりあえず立ち消えになった。処分してしまうと私の住まいをどうするか、母は迷ったのだろう。男といるところへ一緒にとはいかない。部屋を借りれば家賃がかかる。私だって母と住むなんてごめんだった。

 劣悪な生活環境である。
(勉強などできるはずはない……)
女にのめり込んだ高校生。……学業成績は最悪であった。母親も私に関心はない。それでも推薦枠の2流大学に道があった。
「行きたいんなら行かせてあげるよ」
金は出す……ということのようだった。
 将来の展望など何もなかった。しかし、思えば親や環境のせいにしながら、自分は甘えて現実から逃避していることを知っていたのである。知っていたのだから、性質が悪いのは私自身であった。
(大学にいくか……)
就職する前向きな気持ちなれず、何となく決めた感じだった。


 閉店して、ホステスがいなくなり、女との接触がなくなって手持無沙汰になったものの、
(誰もいないのもいい……)
1人の気楽さに気持ちが落ち着くようだった。それだけ女漬けだったということか……。
19歳の倦怠感……。私の心はさらに歪んでいた。


 私は女に不自由しない星のもとに生まれたのかもしれない。そろそろ手元に女が欲しいと思い始めた頃、降ってわいたように、望んでいた密かな願望を満たす状況が訪れた。
 
 ある日曜日、ふらっと母親がやってきた。
「あんたさ、明日から隣に1人くるから。よろしくね」
いきなりそう言って、
「1年くらいだと思うけど……」
またどこかのホステス崩れかと思い、
「お店やめたのに?」
「そういうんじゃないのよ。店っていえば、いずれまたここでやるから」
別のパターンで考えていると言って笑った。

 隣の部屋に住み込むのは誰か。聞いて、内心、気持ちがさざ波立った。
「実はね……」
母親は言いにくそうに、しかし、しばらく私と同居させるとなれば一通りのことは説明しておかなくてはならないと思ったようで、事の次第を語った。

 名前は石森理沙、いま一緒にいる男の娘だという。男はたしか大倉と言ったはず……。すると察したのか、付け足して事情を話した。
 大倉は5年前に離婚している。子供が3人いて、理沙は長女。つまり石森は別れた大倉の元妻の姓である。
「つい2か月ほど前、向こうと折り合いが悪くてうちに来たのよ」
説得したが、どうしても帰りたくないと言ってきかない。仕方なく転校させてマンションに住まわせたようだ。
「いま3中に通ってんの。でもねえ、難しい年頃でさ……」
母が理沙の悪い事ばかりを言い立てたのは、たぶん結果的にマンションを追い出す形になった後ろめたさ、言い訳だったように思う。

 理沙は中学3年、これまで2度問題を起こして児童相談所に保護されている。
「いろいろある子でね。あたし、いま別の店で働いてるのよ。だから見てるわけにはいかないでしょ」
ふざけるなと心で吐き捨てた。
(邪魔だったんだろう?)
中学生の娘がいたらイチャイチャもしていられないだろう。
(放棄したんだ……)
私は母の話を聞きながら腹を立てるより呆れていた。問題のある中学生を私と2人で生活させる神経が理解できなかった。

「面倒みるよ」
少し微笑みを浮かべて私は言った。
「そうしてくれるかい?」
「料理も少しは作れるし、学校もちゃんと行くようにさせるよ」
「お前がそう言ってくれると助かるよ。やっぱり大学生だね」
母を見送りながら、私は自分でも覚えのない薄暗い心の重さを感じていた。


 15歳の女の子……。一時、憧れた対象である。疼くものがあった。
(隣の部屋に住む……)
隣の部屋といっても襖一枚、しかも私の部屋は奥、トイレに行くにも隣を通る。
(部屋を替わってあげればすむことだが……)
それはたいした意味はない。部屋は隣なのだ。……どちらにしても同居であった。
 ところで、期間を1年と言ったのには理由があった。中学を卒業したら寮のある会社に就職させる考えだったようだ。

 疼くものがあったとはいえ、何度も補導されている問題児である。よからぬ仲間と遊び歩いていたのだろう。詳しいことはわからないが、おそらく性体験もあるにちがいない。そうなると私の願望である清純な少女とはかけ離れている。その点では期待できないが、若い女がそばにいる生活は、
(ほしい……)
どうなるか、どんな娘か、想定はできないが、
(刺激にはなるだろう)
何も定まらない妙な期待だった。  
 
 


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