女体妖しく夢現（ゆめうつつ）-13
（１３）
理沙と触れ合うことが多くなった。どちらからということではなく、ごく自然に、互いに引き寄せられるように私たちは体を寄せ合った。それにともなう言葉はない。
テーブルを挟んで話をしている時も、いつの間にか畳に移って向き合い、手を取り、腕をさすったりしているうちにくっついていた。
並んでテレビを観る。それは毎日のことになった。肌に触れ、呼吸を感じ、声の響きさえ直に伝わってくる気がした。気持ちがやさしくなり、温もりを求めてさらに接触した。
言葉で確かめてはいないのだから理沙が私と同じ思いだったのかはわからない。だが、私は感じていた。温め合う感触から、きっと心を寄せているのだと……さらに、心を許しているのだと。……
ある晩、私は初めて夢精を経験した。
高原だろうか。まばらな木々と草原が続く場所に私はいた。
（探している……）
誰かを探していた。知っている誰かを……。
強い日差し、眩しい天空、しかし涼しい風が吹いていて心地よい。鳥のさえずりが聴こえている。
歩いていると木の陰に風に揺れるスカートが見えた。
（いた！）
胸がときめく。
（見つけた！）
名前が出てこない。木の陰に隠れている。
（理沙！）
思い出したと同時に覗くように顔が見えた。笑っていた。
走っていくとスカートの裾を翻して逃げていく。ときおり振り向き、招くような笑みを見せる。
（待ってくれ）
追いついて腕をつかむ。乱れた息のままキスをした。そのまま草の上に重なっていった。
（ああ、理沙）
柔らかい体の感触が伝わってくる。
私の手はスカートの中へ、そして下着をさげる。理沙が腰を浮かせ、小さな下着は足を抜けた。
脚を開いたのは理沙である。
（おお！）
産毛のような陰毛は亀裂を被うこともなく、ささやかに黒ずみを見せている。
（好きだ、理沙！）
重なり、一気に押し込んだ。
（ああ！）
快感が噴き上げるように高まり、射精が起こった。
目覚めた時、放出は続いていた。下着に手を入れて何が起こったかを知った。
（夢精……）
知識はあった。
夥しい精液であった。
夏休みも終わりに近づいた頃、理沙の就職が正式に決まった。
「あの神奈川の？」
「うん……」
「やっぱり、高校行かない？」
「うん……無理しないほうがいいって」
「誰が言った？」
「いろんな人……。自分でもそう思います……」
「親はお金出してくれるんだろう？」
「言えば出してくれると思うけど……」
理沙はいつもの通り私に寄り添って肩に頭をあずけた。
（京都へ行こう……。連れて行ってやろう）
思い付くと気持ちが急いた。
（夏休みに……）
アルバイトをしている時間はない。
夕方、母親のマンションに行った。母は店に出ていて留守である。『父親』に会いに行った。籍は入っていないから『父』ではないが、理沙の父親ではある。
「お。聡くんか」
マンションに行くことはまずない。
「お母さん、店に行っていないよ」
「知ってます。すいません、母に内緒でお金貸してください」
ゼミの研修旅行の費用を遊びで使ってしまった。母に言えない。アルバイトして返しますと頭を下げた。
「わかった」
嫌な顔をしなかった。
「返さなくてもいいから。何かあったらまた言ってきなさい」
頼られた、と思ったのかもしれない。父親の真似事ができたと思ったのだろうか。心なしか嬉しそうに見えた。
ゼミの費用はすでにもらってある。
（研修は欠席すればいい）
さらに３万円を手にし、生活費ものこっている。京都に行ける。
（このくらいしてもいい。当たり前だ）
高校も行かずに働く娘のためだ。……
新幹線に乗るのは初めてだと言った。
「のぞみ？のぞみ？」
胡坐をかいた私に跨って抱きついてきた。
「ホテル？ほんとのホテル？」
ホテルも初めて。……
嬉しさに飛び跳ねる理沙。座位の恰好である。局部が押され、勃起した。彼女の股間に当たっている。硬いものが何なのか。
（わかっているはず……）
動きが止まって尻を沈め、理沙は私の首に腕を回して頬を寄せた。
私はそのままでいた。グングン、ペニスが圧迫に反応している。理沙は黙っている。が、ゆっくり腰を動かし、明らかに股間を押し付けている。
（これは、淫らな行為ではない……）
体勢を保ちながら私はそう思っていた。
質の異なる昂ぶり……。それがどういうものなのか、自分なりに分かったように思った。
夢の出来事は、生理……。体から湧き出る性の動向……。抑制しているのは理沙を大切にしたい心……。快楽に流される感情ではない。愛情なのか。……そう思ったのである。そして、人生における自分の立場を黙って受け入れている健気さに打たれたのか。理沙がどこまで自身を見つめていたのかは知る由もないが……。
勃起したのは生理。そこに自らを押し当てている理沙の行為もそうなのか？
理沙は微妙な動きを続けていた。
その夜遅く、寝ていると理沙が襖を開けた。
「起きてる？」
「うん……」
先程、風呂から出たのは知っていた。
「一緒に寝ていい？」
訳は訊かなかった。
「いいよ……」
理沙の姿が隣室の灯りの逆光になって黒く浮かんでいた。
（裸……）
何も身に着けていない。
理沙の体が触れ、腕が私を抱いた。そして、ペニスを探り、握った。反応する。抱き寄せた彼女の風呂上がりの匂いが熱をもって鼻腔に入ってくる。私はそれ以上動かなかった。