京子-8
「3時頃いらっしゃい。私がいろいろ作るからお腹空かしていらっしゃい」
「わあ、お姉さんの手料理ですか。素敵ですねえ、楽しみ」
「それじゃお待ちしてます」
「あっ、何で切っちゃうんだよ」
「あっ、いけね」
「いけねじゃないだろ」
「自分の友達と話してるような気になっちゃって、ご免ご免」
「俺の誕生パーティなんかいつやることになったんだよ」
「今」
「突然そんなこと決めるなよ」
「可愛い陽介の誕生日だもの、何かしなきゃ」
「今までしたこと無いじゃないか」
「だから偶にはしないとね」
「姉さんが作るって何作るんだよ」
「何がいい?」
「何がいいって、何が作れるんだよ」
「何でも」
「何でも?」
「フランス料理からハワイアンまで」
「ハワイアン? ハワイアンって何?」
「バナナ」
「バナナ? それって料理じゃ無いじゃん。唯の果物じゃないか」
「格好良く切って皿に盛ればそれでも料理になるんだよ」
「じゃフランス料理は?」
「それは今から本見て研究しないと」
「頼りないな。そんなの食えるのか?」
「フランス人形作るんじゃ無いから食えるさ」
「どっか外から買って来た方がいいんじゃないか」
「何を?」
「何かコンビニで適当に」
「パーティにそんな物出せますか。それより1人じゃ寂しいからもう1人2人呼びなさい」
「もう1人2人って誰?」
「いつも来る加藤君でいいじゃない」
「もう1人は?」
「さっき言ってた木村君ていうのは?」
「あ、木村っていうのは女」
「それなら丁度いいじゃない。女2人男2人になる」
「でも木村が来ると騒々しくなると思う」
「いいじゃない。パーティなんだから」
「あいつ口が悪いから姉さん気を悪くすると思う」
「私は裏方だから関係無いの」
「あっ、そう言えば思い出した」
「何?」
「姉さん、俺の学校の名簿知ってる?」
「うん」
「ちょっとそれ出して」
「そこの抽出に入っているけど、どうして?」
「木村に電話しないといけない」
「何で? 明日学校で言えばいいじゃない」
「直ぐ電話しろって言ってたから」
「直ぐ?」
「うん」
「直ぐってどういう意味?」
「直ぐは直ぐだよ」
「だから何から直ぐ」
「あ、これだ」
「何から直ぐ?」
「何が?」
「もういいわ」
「もしもし、僕戸山って言いますけど木村京子さんいますか」
「此処には木村しかいないから、『京子さんいますか』でいいのよ」
「あっ、木村か」
「どうしたの? 薫から電話でも来たの?」
「うん、それが来たんだ」
「えっ、訪ねて来たの?」
「違う。電話が来たんだ」
「何だ、びっくりした」
「それじゃ切るよ。知らせたから」
「ちょっと待ってよ」
「あ、そうだ。忘れてた。今度の日曜のえーと、姉さん何時だっけ?」
「3時」
「3時に来て下さいって」
「何処に?」
「うちに」
「戸山くんのうち?」
「決まってるだろ。庭でやる訳無いだろ」
「庭?」
「だから雨が降ってもやるから大丈夫だ」
「やるって何を?」
「誕生日だよ」
「戸山君の誕生日月曜じゃなかった?」
「良く知ってるな」