京子-15
「馬鹿。ここにパットが入ってんだろ。ずっと座ってっとケツが痛くなるからパットが入れてあるんだ」
「なあるほど」
「早速サイクリングに行かないといけないな」
「陽介喜んでないでお礼」
「あ、有り難う村井さん」
「喜んで貰えて嬉しいわ」
「うん。喜んだ。村井さんの誕生日いつ?」
「残念ながらもう過ぎたの。4月20日だから」
「そうか。でも誕生日は毎年あるからね」
「そうね。来年は楽しみにしてていいのかな」
「いいよ。俺なんだって買ってやる」
「そんな金あんのかよ」
「だから持ってる範囲内で」
「いくら持ってる?」
「今は無い」
「いつも無いんだろ」
「たまにはある」
「陽介君2000円いつも持ってるようにって私が言ったでしょ?」
「2000円貰ったけど使っちゃった」
「だから使ったら又貰って補充しておきなさいって言ったでしょ」
「だから忘れた」
「駄目ね」
「木村さん陽介君の世話女房みたい」
「そうよぉ。いちいち世話してやんないとドジだから」
「いいわねえ。やっぱり同じ学校の強みねえ」
「村井さん、村井さんの世話は僕がして上げますから」
「何処の学校か知ってんの」
「何処ですか?」
「武蔵高校よ」
「それって何処にあんの?」
「何処でもいいの。加藤君の世話にはなりたくないって」
「そんな冷たいこと言わないですよね」
「そうね。お世話して下さい」
「ほらみろ。やった」
「お前世話するって何すんの?」
「だから何処か行く時エスコートしたり」
「それじゃ今度オペラ見に行くからエスコートして貰おうかしら」
「オペラって何?」
「オペラも知らないでエスコートなんて言うんじゃ無いよ」
「陽介君はオペラって知ってんの?」
「知ってるよ。うちにあるもん」
「え?」
「エ?」
「何のこと?」
「姉さーん。オペラって何処にあったっけ?」
「何で?」
「いいから出してよ」
「陽介の机の右の下から2番目に入ってる」
「そうか」
「お前自分の机の抽出の中身も姉さんに教わるの?」
「世話好きだから任せてんだ」
「私が時々整理しないと虫の蛹だの変の物入れておくのよ」
「虫が好きなんですか? 陽介君」
「木の実と間違えて拾ってきたみたい」
「生物は苦手だもんね」
「得意な科目なんて無いじゃん」
「これこれ」
「これはオペラ・グラスよ」
「これを使って見るのがオペラ」
「これを使って見る物?」
「分かった。バードウォッチング」
「分かってない。オペラって言ってんのに何でバードウォッチングが出て来んの?」
「鳥じゃないとしたら動物」
「2人ともあんまり無知をさらけ出すんじゃ無いの。うちの学校の恥になる」
「オペラって何?」
「歌いながらお芝居する西洋の芸術よ。蝶々夫人とかトスカとかって聞いたこと無いかしら」
「聞いたこと無い」
「ある訳無いじゃない、こいつらに」
「あ、お姉さん。こいつらは酷い」
「あんたと付き合ってるから陽介の程度が下がっていくんだわ」
「えっ、それは逆ですよ。僕が下がって行くんです、陽介のお陰で」
「お互いに脚引っ張り合ってんでしょ」
「まあそういうことにしておこう」
「気取ってんじゃないの」