第四章 たおる-2
俺は姉さんの胸の上にある手のひらを少し横にずらした。
「ん…。」
姉さんが声を漏らした。
「感じるの?弟の俺に触られて。」
「あなたこそ、姉の私の胸にそんなことをしたいの?」
俺は手のひらをさらに何往復かさせた。
姉さんはじっと堪えている。感じてしまっていることを悟られまいと。だが、それは無駄な努力だ。何故なら、俺を握る力がどんどん強くなっているのだから。
「…ねえ、初めて俺にそういう感情を抱いたのって、いつなの?」
姉さんが少し遠い目をした。
「暑い暑い、蒸し暑い日の夕方だった。外ではカナカナカナ、ってひぐらしが鳴いていた。お風呂上がりの私はタオルを巻いてリビングを通った。そのとき、振り返るとあなたが居た。その視線はタオルからはみ出した私の体を、いいえ、その中にまで注がれていた。それを感じた瞬間、私の下半身の奥の方がジン、と痺れたの。」
「俺もだよ、初めて姉さんに胸がジクっとなったのはその時だ。」
「え、それじゃあ同時だったってこと?」
「そうみたいだね。」
「あの時はそれが何なのかは分からなかった。だけど、それ以来あなたが私を避けるようになって。せつなかった。悲しかった。その後、それぞれに恋人が出来てあの時の気持ちは忘れてしまっていたんだけど…。」
「うん、俺もだ。すっかり忘れていた。」
「でもね、あなたとテツヤ君が姉弟だからといって恋愛感情を持たないとは限らないという話を立ち聞きしてしまって。あの頃の想いが蘇ってしまったの。」
カナカナカナ、カナカナカナ…。
「姉さんもなんだ。」
「じゃあ私たち姉弟、テツヤ君に、封印されていた想いをこじ開けられてしまったという事なのね。」
「そうなるね。罪なヤツだ。」
「後悔してる?こうなってしまったこと。」
「してる。」
「…そう。」
「でも同時に、とても幸せに感じてるよ、姉さん。」
彼女の美しい顔に、花が咲いたように笑顔が広がった。でもその花は、ひまわりの様に無邪気なものではなく、薔薇の様に歓びに満ちたものでもなかった。
「姉さん、見ちゃだめかな?」
「見たいの?」
「うん。子供のころ、一緒にお風呂に入った時以来見ていないよね。今の姉さんの胸って、どんななんだろう。」
「もう触ってるじゃない。」
「見たいんだよ。」
姉さんは自分のシャツを掴んでスーっと捲り上げた。胸の裾野が見えてきた。
「待って。」
「え?」
姉さんの手が止まった。
「行こうよ。」
じっとみつめた。
「…そうか、そうだね。行きましょう。」
俺たちは部屋を出て階段を下りた。そこはリビングだ。
「じゃ、少しまっててね。」
「うん。」
姉さんは奥の部屋へと消えた。そして。
「こう…かな?」
タオル一枚の姿で戻ってきた。伏し目がちに、少し頬を染めて。
片手で押さえただけのタオルの胸元には谷間が覗き、裾の所は大きく捲れていて、それを見た瞬間、俺の胸はジクっと痛んだ。でも、視線はそらさない。
タオルを掴んでいる姉さんの手がゆっくりと下りていく。それに応じてタオルの合わせ目が広がっていき、やがてハラリと床に落ちた。姉さんは何も身に着けていない。
「あなたの視線の先にあったのは、これなんでしょ?」
「そうだよ。そして」
「私はその視線を体全体で感じた。」
カナカナカナ、カナカナカナ…。
俺は豊かでハリのある胸の膨らみに顔を近づけ、その先端に唇をつけようとした。
「ねえ。」
「何?」
「私たち、姉弟だよね。」
「そうだよ。」
「間違いなく実の姉弟だよね。」
姉さんの目には涙が溢れかかっている。
「それが分かっているのに私、もう心を止められない。」
まっすぐに俺をみつめた姉さんと唇を重ねた。ため息のような声を二人はこぼした。
俺は唇を首筋から胸へと這わせ、今度こそ姉さんの膨らみの頂上にある敏感な先端を吸った。
「んん…。」
姉さんはもう感じていることを隠そうとはしない。目を閉じて横を向き、俺にされるままに胸を揉まれ、先端に唇や舌を這わされ、悦びの声を漏らし続けている。それどころか、俺の髪をクシャクシャに掴み、自分から胸を押し付けて来る。
「…ねえ、私にも見せて…。」
俺は無言でシャツを脱いだ。姉さんが俺の胸に手のひらを這わせ、その手はズボンとパンツを掴み、まとめて下ろしていった。
「ああ、これが…。」
姉さんは膝立ちになり、じっとみつめている。
「気付いてた?私、いつの間にかこれが欲しくなってしまったのよ。だけど私たちは姉弟。望んでも手に入れられないものだと思ってた。だから、その想いを満たすために自分で…。」
「そうだったんだ。」
「それを、よりによって本人に見られてしまった。どんなに恥ずかしかったか。そして…どんなに胸が高鳴ったか。」
「同じだよ。」
「え?」
「俺も姉さんを想いながら何度も。」
姉さんが俺を握った。
「ねえ、まだ呼んでくれないの?」
「ん?」
「この前言ったでしょ?姉と弟の関係を無いことにするなら下の名前を呼び捨てにしてもいいって。ねえ、あなたの答えを聞かせて。」
俺は大きく息を吸い込んだ。そしてささやくように、でもはっきりと告げた。