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あの夏の日のひぐらし
【姉弟相姦 官能小説】

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第五章 きせつ-1

 俺は今、ヨーロッパ圏の小さな国の小さな田舎町に居る。気候が安定し、豊かな水資源のあるその風土は、気難しいアナログ回路の設計開発にむいている。
 俺の生み出した製品で莫大な利益を得ながらそれを隠し続けて独占してきた社長一族に別れを告げ、自由な製作活動の場を求めてこの国にやってきた。
 スポンサーの申し出は大手を中心に信じられないくらい殺到した。日本の工場で働いている時、俺の作品はずっとブランド名だけで市場で流通していたのだが、何故かこの国への移住を決めたのと時を合わせたかのように俺の個人名が明らかにされたためだ。
 俺はその中から町工場規模の小さな会社を選んだ。巨大な組織に取り込まれ、利益を優先するあまりに自由な発想を殺されるのを警戒したためもあるが、その会社の経営者がずっと俺の作品を愛し続けてくれている事を知ったのが一番の決め手となった。
 「君の音が好きなんだよ、僕は。自分の工場から新しい君の音が生み出されるなんて、考えただけで鳥肌が立つんだ。大きな会社のように多額の報酬を約束することは出来ない。正直、いつつぶれるかも分からない。だから、選んでもらえるなんて不遜なことは考えていないよ。ただ、君の音を愛してると伝えたくてオファーしたんだ。時間をくれてありがとう。」
 自分の居場所を見つけた俺は、今の生活に幸せを感じる毎日をおくっている。
 テツヤは今、東南アジアの新興国に居る。ハッキリ言って、文化も技術もどうしようもないほどダメダメだけど、有望な人材に溢れているんだ、と興奮気味に話すテツヤの電話を今も克明に覚えている。技術レベルの底上げから始め、新規開発を軌道に乗せたテツヤは、世界的に名を知られた電子デバイスのグループ企業の総帥として君臨している。さすがは俺の兄貴だ。いや、弟か?まあ、どっちでもいいか。二人とも姉さんの弟なんだから。
 姉さんは今、戦地に居る。と言っても野戦病院みたいな最前線ではなく、最後線とでも言えばいいのだろうか、とにかく後方に居て、傷ついた人たちを看護している。
 前線に出て死ねばヒロインになれるわ、だけど、一人でも多くの人を救いたいなら自分が死んではだめなの、臆病者と言われてもいい、私は泥臭く生き抜くの、と真剣な眼差しのビデオメールをくれたきり、連絡がつかなくなった。でも、姉さんは今、戦地に居る。必ず居る。
 カナカナカナ、カナカナカナ…。
 窓の外にはひぐらしが。
 カナカナカナ、カナカナカナ…。


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