E純子の抵抗-2
到着するなり松井社長は玄関まで出迎え剛志の両手を握った。
「有難う。助かったよ。君にすすめられて18000円で買ったサンヨーの株はすぐに20000円になった。
一週間前に君から即売る様に言われたが疑心暗鬼で半分だけしか売ってないんだ。それでも随分助かったよ。
どうだろう、僕の持ち株はすべて君に任せようと思うのだが一度晩飯に付き合ってくれないか。」
「それを断れる証券マンはいないでしょう。いつでも喜んでご相伴に与りますよ。」
松井産業を出た後帰社するには早すぎるので七菜を呼び出しお茶にした。
純子の情報を事細かに入手したかったからだ。
「純子、君には絶対に会わないって決めたようだが裏返せばあの時の快感がよっぽど良かったのよ。
もう一度交われば絶対に抜け出せないって本人が自覚した証拠ね。私もそうだったからよく分かるわ。」
その夜、純子の家のドアーフォンを押した。
「は〜い」明るい声の笑顔がモニターに写った瞬間その顔が引きつった。
「何しに来たのよ。君にはもう会いたくないのよ。帰って下さい。」カーテンの陰から覗いてみた。
(自宅まで押しかけて来るなんてルール違反よ。まだ玄関先でうろうろしているわ。
困ったわ。今日は主人もいるしもうじき主人の知人が訪ねて来るの。早く帰って欲しいわ。)
その時書斎のドアが開き「おーい純子。今着いたようだよ。玄関は僕が開くから純子は酒の用意を頼むよ。」
「分かったわ。来客って剛志君の事だったのね。」「剛志って言うの、君に紹介してもらった株屋さんだよ。」
「駄目よ。まだテスト中じゃないの。結果が出るまで招待するのは止めましょうよ。帰って頂いて下さい。」
「いやいや、君には話してなかったかな。彼には随分儲けさせて貰ったんだ。完璧に合格だよ。」
「こんばんわ。松井社長から急に今晩来ないか?って言われた時には少し驚きましたが感謝してます。
奥様もお久しぶりです。あの楽しかった鑑賞会以来ですからもう3か月になりますね。本当に楽しかったですね。」
「おいおい、鑑賞会ってなんだよ。」
「あなたもご存じだと思うけど親友の七菜が日舞のメンバーに選ばれて皆で見に行ったのよ。」
「では、社長。いただく前に契約書にサインと捺印をお願いします。有難うございます。」
「じゃ、飲もうか。僕はとりあえずビールだが君もそれでいいかい。じゃ、純子頼むね。」
「社長、今日は有難う御座いました。大口契約を頂いて飲むビールは最高に美味いですね。今夜は呑みますよ。」
「僕だってサンヨー株,君の助言で250万円ほども助かったからホクホクだよ。今後もよろしく頼むよ。」
楽しい酒はどんどん進む。ビールがワインになりチューハイになる頃には完全に打ち解け下ネタ話の花が咲いた。
「松井さん、奥様も一緒に飲まれたらいかがですか、僕たちの世話だけじゃ気の毒ですよ。」
「そうだな。おーい純子、君もここへきて一緒に飲みなさい。」「いえ。私は料理のお世話をしなければならないので。」
「奥さん、料理はもういいですよ。今日は二人ともとてもいい日なんです。ぜひ付き合って下さい。」
「そうしなさい。チューハイでいいかな。」「それではお言葉に甘えて一杯だけ頂きます。」
「純子、今日は家飲みだから一杯だけと言わず酔うまで飲んでもいいんだよ。それより今面白い事を聞いたんだ。」
「しゃ、社長、言わないで下さいよ。男同士の話って約束したじゃないですか。」
「いいじゃないか。実はな彼好きな女性が出来たらしいんだ。でも告る事が出来なくて悶々としているんだって。
僕は当たって砕けろって助言したんだが、純子はどう思う?」
「そうね。私も主人と同じ考えよ。何もしなければこれ以上の進展はないわけでしょ。それなら動かなきゃ。」
「よし、そうします。腹をくくって口説いてみます。彼女も僕の事気に入ってくれている様な気がするんですよ。」
「そうしろ、そうしろ。そうと決まったら今夜は飲むぞ。」「あなたもう大分飲んでますよ。大丈夫ですか。」
「そうですよ。それに終電の時間が迫っているんです。残念ですがぼちぼち失礼しなきゃなりません。」
「駄目駄目、今夜は帰さないよ。その彼女の事も含めて君の恋愛事情をもっと知りたいな。」
「あなた無理にお引止めしちゃ悪いですよ。明日もお仕事あるんでしょ。」
「いえ大丈夫です。こんなに美味しい酒は久し振りですのでお言葉に甘えて泊っていきます。」
「よし分かった。君もスーツは脱ぎなさい。僕もシャワーを浴びて少し酔いを覚ましてくるよ。」
松井さんが浴室に消えた瞬間、純子さんを思いきり抱きしめその唇を奪った。
必死で抵抗し拒絶の言葉を吐いたが小声だ。