冥界の遁走曲〜第二章(前編)〜-14
◎
闘夜はドアを出るやいなや呆然としていた。
癒姫の能力は消えている訳だから家に帰るなどと言うことは無い。
むろんガヴァメント本部の廊下に出るわけなのだが、その廊下もいくつも枝分かれしていて、癒姫がどの道を行ったのか分からないのだ。
「何とかしないと……そうだ!」
癒姫は泣いていた事を闘夜は思い出した。
泣くと言うことは涙を流す事。
ならば廊下に涙が落ちた所を通ればいいのだと考えた。
だが廊下は上下左右どこを見渡しても真っ白で涙が落ちているかどうかはものすごく見分けにくかった。
「それでも……!!」
闘夜は四つん這いになって至近距離から床を見て涙が落ちていないか確認する。
……絶対に探さないと!!
「あれ?神無月じゃねえか」
突然後ろから声をかけられた。
だが闘夜は冥界にあまり知り合いはいないはずだ。
闘夜は涙探しを中断して立ち上がり、振り返る。
そこには以前、突然戦闘を仕掛けてきた龍也とその傍でじっくりと見ていた楓がいた。
「何してんのよ、こんな所で?」
「癒姫を知らないか?」
闘夜は焦りながら尋ねる。
もしも癒姫が二人とすれ違ったと言う僥倖があれば。
「ああ、癒姫ちゃんならさっきすれ違ったぜ。
そういえば泣いてたような気が……」
「どこで会った!?」
詰め寄るように闘夜が龍也に尋ねる。
「どこ……ってまさかお前癒姫ちゃんを泣かしたんじゃねぇだろうな!?」
その言葉に楓も耳を傾けて闘夜を半目で見る。
「……泣かしたのは……」
誰なんだろう?と闘夜は自問する。
自分なのか?玄武なのか?
いや、それは違う。
「今はそんな事を言ってる場合じゃないんだ!
俺は癒姫を慰めてあげたい。
それだけなんだ!だから教えてくれ!!」
龍也は闘夜の意気込みに完全に気圧されていた。
楓が珍しそうに二人を見る。
そして口を開く。
「癒姫と会ったのはこことはちょっと離れた廊下なんだけどあの子が行こうとしたところなら分かるわ」
「どこなんだ!?」
今度は楓に詰め寄る闘夜。
「庭園よ」
「庭園?」
聞き慣れない言葉に闘夜が首をかしげる。
楓は溜息をついて、
「仕方ない、案内してあげるわよ。
その代わり条件があるわ」
また条件か、と闘夜は心の中で呆れて、
「何だ?」
「絶対に癒姫を泣かせないで、いいわね?」
「ああ、分かってる」
闘夜は堅く頷いた。
もとより自分はその為に癒姫を探しているのだから。
だが本当に自分にできるのだろうかと言う不安もある。
だがやらなければならない。
これは自分の仕事なのだから。