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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第二章(前編)〜-15



闘夜は龍也と楓の案内で庭園へと通じるドアの前にまで来た。
その道のりはとても長かった。
庭園は屋上にあった。
玄武の個室が20階にあり、ガヴァメント本部の階数は50まである。
その間、龍也と楓はエレベーターを使わず、「鍛錬だ」とか言って闘夜にまで階段を登らせた。
登らせるだけならまだよかったが二人は走って階段に登っていったので闘夜も必死についていった。
二人とはぐれてしまうと庭園への行き方が分からなくなるので付いていくしかなかった。
30階と言うだけの階段の数を登った闘夜は息が上がっていた。
「鍛錬が足りねえな」
龍也がニヤリと笑う。
「鍛錬なんてした事ない」
「じゃあまた今度鍛えてあげるわ」
親切心で楓が言ったが、闘夜は首を振って遠慮した。

……また闘うなんて、そんな事したくない。

「じゃあな」
「これ以上癒姫を泣かしたら承知しないからね?」
二人は再び階段を降りていった。
闘夜は息を整えてからドアを開いた。
開けて、景色を見て、心を打たれた。
そこはまるで植物だけの世界のようであった。
全体の背景を葉の緑で形成された空間は空をそのまま映したまま十種十色の花を咲かせている。
太陽がないのでどうやって光合成をするか分からなかったが、それでもここの花達は凛とした姿を見せていた。
最初は入る事すらためらった。
人の世界以外の所に自分が入っていいのだろうか、と。
だがもっと見たいと言う欲求が闘夜に足を踏み込ませた。
天然の芝生が広がる床は妙に足取りを軽くしてくれているような気がした。
ある程度歩いた所で足を止めた。
闘夜の目の前にあったベンチに少女が座っていた。
少女は少し前かがみになって泣いていた。
どうやって声をかければいいか分からない。
だがじっとしている訳にもいかない。
闘夜はゆっくりと癒姫の隣に座った。
癒姫はゆっくりと顔を上げた。
だが手は未だに顔を覆っている。
見えているのは口だけだ。
「ごめん…なさい、今はちょっと顔を見せる事ができません」
すごい事になってますから、と癒姫は自嘲気味に笑った。
「いきなり飛び出してすみませんでした。
私……その、どうすればいいのか分からなくて……」
えへへ、と再び笑う癒姫。
いくら表情が笑っていても、心の中では笑っていないことが分かる。
「闘夜さん、聞いて欲しい話があるんです」
それは、
「私の過去の話です」
もう知っている、と闘夜は口に出しかけて止めた。
その事を言ってはならない。
それが玄武との約束だ。
「ああ、聞かせてくれるか?」
闘夜が返事をしたものの、癒姫が口を開くまで少しの時間を要した。
「実は私、お爺様の本当の孫じゃないんです。
私、本当は小さい頃から施設にいて……。
私が五歳くらいの時にお爺様が引き取ってくれたんです。
『見つけた』ってお爺様の言葉は今も忘れていません。
私は本当に幸せでした。
でも周りの方達は私が偶然『死神の子』の地位を得た事に納得しませんでした。
だから私は学校でも結構イジメにあっていました。
友達も……一人もできませんでした。
それでも私は死神の子にふさわしくなろうと頑張りました。
強くなって、賢くなって、みんなが認めてくれて、いつかお爺様の跡を継げるような人間になりたかったんです。
でも、それは途中で間違ってると分かったんです」
「間違ってる?」
どこが?と闘夜が問うと、
「本当は周りの人なんてどうでも良かったんです。
たった一人、お爺様に認められればそれでよかったんです。
私がこうやって生きているのも、闘夜さんに自分の過去を話す私がいるのも全てがお爺様のおかげなんです。
でも……お爺様が死んでしまったら……私はどうやって生きていけばいいんですか?」
癒姫の問いかけはあまりにも難しかった。
闘夜にはどう答えていいのか分からない。
「私は……何のために生きていけばいいんですか?」
だから、闘夜は癒姫の体をゆっくりと抱きしめた。
いろいろな想いが心の中で叫びをあげている。
闘夜はそれらを全て総括した。


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