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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第二章(前編)〜-13

……俺はどうしたらいいんだろう?

自分は無知だ。
自分は無力だ。
女の子一人慰めてやる事もできない。
だが助けたい。
彼女が涙を流すならそれを止めてあげたい。
彼女の過去を知ってそれが止められるのだとしたら、
「教えていただけませんか?
彼女の過去を」
「……うむ、いいじゃろう」
玄武は意外にもあっさりと答えを出した。
闘夜としては最初は拒否されると思っていたのだが。
「その代わり条件がある」
「条件?」
訝しげな顔をする闘夜に玄武はあくまでも無表情に、
「2日後に開かれる死神会議に出て欲しいのじゃ」
「死神会議?」
「時間がないんじゃなかったかの?
今ここで決断を下してもらおうかの」
確かに時間がない。
その会議の内容がどんな物なのか闘夜は知らない。
だが自分がこうしている間にも癒姫は泣いている。
「分かりました約束します」
「うむ、では話すとするかの。
癒姫の過去を」
玄武の顔が厳粛になった。
闘夜も知らず知らずの内に顔がこわばる。
「ある男と女がおっての。
二人はいつしか恋に落ちた。
だが男の仲間も女の仲間もそれを反対した。
それは禁断の愛だったからじゃ」
「禁断の愛?」
闘夜が疑問を入れるが玄武は無視して続きを話す。
「それでも男と女は愛し合った。
そして子供を設けたんじゃ。
じゃがそれは禁断の愛から生まれた禁忌の子供。
仲間達はすぐに彼ら全員の抹殺を試みた。
じゃが子供だけは抹殺することができんかった。
男と女が殺される前にどこかに預けたからじゃ」
話の内容は分かるがそれと癒姫がどう関係しているのかが分からない。
「子供は結局施設に預けられていての。
それを知った仲間の一人がその子供を殺そうと施設に出向いた。
だが……当時五歳となっていたその子を殺す事はできなかった。
その仲間の一人と言うのが女の父親だったからじゃ」
「え……?」
話の内容が分かり始めるにつれて闘夜の鼓動が早くなる。
「仲間の一人はその子を施設から引き取り、今の今まで育ててきた。
そしてその子は当時、父と母に名付けられた名前を名乗っておるよ」
玄武は一息ついて、
「『癒姫』とな」
闘夜は驚きを隠さなかった。
「仲間の一人は愚かであった。
癒姫を引き取れば辛い人生を歩ませると分かっておった。
『死神の子』という業はとてもつらく、重い物じゃ。
それなのにあの娘はいつも笑顔じゃった。
少なくとも顔をあわせていたときには」
玄武の目には涙があふれていた。
「行きなさい、少年よ。
わしにはできぬ事であるがおぬしならできる。
だがわしがここで話した事は決して癒姫に言ってはならぬ。
約束じゃ」
闘夜は無言で頷いて玄武に背を向け走り出す。
が、途中で足を止めて玄武の方を振り返る。
「癒姫は……少なくとも『仲間の一人』に引き取ってもらえて幸せだったと思います。
客観的な判断だし癒姫自身がどう思っているのか分からないけど……」
「有難う、闘夜君。
さぁ、早く行ってあげなさい」
「はい!」
闘夜は玄武を見ずにドアから出て行った。
「癒姫を……救ってやって欲しい。
頼んだぞ、神無月 闘夜」


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