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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲(フーガ)〜第一章(前編)〜-1

神無き月の夜に闘う者。
それが俺であり、俺の名前だ。
俺にはある特殊な能力があった。
そして、その能力が…

第一部  「『魂』の出会い」

三時間目、体育館の中。
少年、神無月 闘夜は跳び箱に向かってダッシュした。
目の前の跳び箱は15段。
普通の高校生が跳べる代物ではない。
だが、その跳び箱に向かって走っている闘夜には微塵の恐怖もない。
笑っている。
跳べる、と思っている。
闘夜は跳んだ。
が、それは小さいジャンプ。
跳んだ先はローター版だ。
そのローター版を踏みしめて闘夜は再びジャンプする。
さっきとは比較にならないほどのジャンプ力だ。
そのジャンプ力を用いて彼は跳び箱を飛び越える。
自分よりも高い跳び箱を、だ。
跳んだ瞬間、周りにいた生徒達が拍手と祝福の言葉を送る。
「すっげえよ!!神無月の奴!!」
「高校生で15段跳ぶとかありえないだろ!!」
などという賛辞を皆が送っていた。
跳び箱を跳んだ少年、神無月 闘夜にはこの手の賛辞はごくごく当たり前だった。
が、やはり褒められると嬉しいものだ。
「闘夜!」
突然太い腕が闘夜の首にからみついてきた。
「お前よくあんなの跳べたなぁ!」
話しかけてきた比較的大柄な少年は山田 裕太。
闘夜が中学校になった時に友達になった。
闘夜は首に巻きついてきた裕太の腕をほどき、
「やめろよ裕太、苦しいって。」
裕太は腕をほどき、
「あんなのTVの中でしか見たこと無かったぜ。」
闘夜は、はは、と笑いながら、
「俺だってあんな大きい跳び箱なんて見たことなかったぜ?」
というと、裕太は驚いた顔をしている。
闘夜は何故驚いているのか考えなかった、というよりは考える時間がなかった。
「神無月!」
ジャージ姿の体育教師、新島が闘夜に声をかけた。
闘夜はこの先生が嫌いだ。
体育の時、この先生はいつも自分にとんでもないことを押し付けてくる。
今日の授業でも見たことも聞いた事もない跳び箱15段をいきなり跳んだのはこの教師のせいだ。
授業の始めに、
「神無月、みんなに跳び箱の跳び方の良い例を見せる為にまずは軽く15段を跳んでみてくれ」
と言ってみんなに15段の跳び箱を出させ、自分に跳ばせた。
一ヶ月前の体育のプールでは、
「神無月、みんなに水泳の良い例を見せてやってくれ。そうだな…、潜水100mやってくれ。」
この高校生活3年間を走馬灯を見るように思い返してみると、体育の授業の手本は全部自分がメチャクチャな内容を見せていたな、と思う。
「…づき、…んなづき、神無月!」
新島に肩を揺らされて、初めて闘夜の意識が前にいる新島に向いた。
新島は心配したような目で、
「大丈夫か?」
と尋ねてきた。
闘夜は作り笑いで
「大丈夫です。」
と答えた。
新島はほっ、と安堵の息をついて、
「今回も素晴らしい手本だったぞ。」
と、闘夜にとってはありきたりなほめ言葉を使ってきた。
闘夜は作り笑いを全く崩さずに
「ありがとうございます」
と言った。
新島はその返事に
「よし、じゃあお前にとってはつまらんだろうが、みんなと合流してくれ。」
と言って新島は15段とは別の方向にあった5,6,7,8段の跳び箱を指さした。
他のみんなはすでにその跳び箱を跳んでいた。
「行こうぜ、闘夜。」
裕太に誘われる形で闘夜は普通の跳び箱に向かっていった。
学校の屋上で人影が闘夜を見ていることも知らずに。



闘夜の跳び箱15段というのは瞬く間に全校に広まっていった。
男女かまわず、その日一日の会話のネタはそれになっていた。


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