〈霧散した未来〉-7
『出ていってくれないか……』
「ッ……」
耕二の目尻には涙が滲んでいた。
それは恭子も同様であり、互いに晴天の霹靂な衝撃以外の何物でもなかった。
『パパ……どうしたの？』
騒ぎを聞き付けて彩矢が顔を出してきた。
表情は不安で一杯になっており、目の前の両親の不穏な姿を捉えると、見る間に泣きそうな顔へと変わっていった。
『彩矢、ちょっと向こうに行ってなさい』
耕二はＤＶＤケースを脇に挟み、彩矢に見せまいと隠した。
いくらなんでも、“こんな物”を愛娘に見せる訳にはいかない……。
『やだ…パパとママと、なんか何時もと違うもん……怖い顔してるもん……』
まだ幼稚な彩矢にも、両親のただならぬ雰囲気は感じ取れていた。
その言葉には表せない重苦しい空気は、まさに恐怖でしかなかった。
「……こ……耕二さん……」
『煩い…煩いんだよ……早く出ていけよ！』
『なんでそんなコト言うのよ？パパもママも喧嘩しないでよ！』
修羅場と化した一室……家族は例えようのない哀しみと怒りと絶望に埋め尽くされ、それらは口を吐いて叫びへと変わる……。
「聞いて！耕二さん私の話を……」
『何を聞けっていうんだよ？早く出ていけ！』
『やだ！やだあ！ママが出ていっちゃうよ？パパ止めてよ！うわーん!!』
流れる涙を拭いもせず、恭子は壁に背中を擦り付けながら階段を下りていく……視線は怒り心頭の耕二と、へたり込んで号泣している彩矢とを交互に見つめ、そして……覚束ない足取りで玄関から出ていった……。