正夢〜鹿見護の一日〜-4
俺の頭の中に子どもの頃の思い出が完璧に蘇った。
「紅い目エルナ、お化けのエルナ…」
「それは…」
「子どもの頃、よくそう言われていじめられていました」
「…つらかったか?」
「まぁ…でも、小さい頃のことですし、気にしても仕方ないです」
彼女はあえてあっけらかんと笑った。
そのいじめていた奴を彼女は今、膝枕しているのに…。
「…湿っぽくなっちゃいましたね」
「いや、いいさ。もう頭も大丈夫みたいだ、ありがとう」
「あ…」
俺は彼女から体を離して立ち上がった。つられて彼女も一緒に立ち上がる。
「もう、授業始まるだろ?さっさと戻った方がいいよ」
「あ…はい」
まだ頭は痛んでいたが、俺は戻ることを決めた。
彼女は今まで、いじめ続けられてきたのだろう。彼女の神秘的な雰囲気はそこから来ていると直感した。
もし俺が昔彼女をいじめていたと知ったら、彼女は俺を嫌うだろう。それに、もしこのまま一緒にいるとまた彼女を傷付けるかもしれない。
エルナを見ずに教会を出る。だが、入り口から少し歩くとエルナが後ろから俺を呼び止めた。
「待って!!」
彼女の叫びに俺は振り返った。彼女は両目を開いたまま、俺に問掛けてきた。
「なんだ…」
「あの…今日の放課後、もう一回お話ししませんか?」
「…いいよ」
「ありがとうございます!放課後、教室に伺いますね」
エルナはそう言うと、先に校舎へと戻っていってしまった。
「あいつ、俺のクラス知ってるのか?まぁいいや、俺も戻ろう」
とりあえず俺もクラスに戻ることにした。クラスに着くと、さっきまで不快だった頭のうずきは綺麗に消えていた。
『…る、護!』
「ん…?」
『ん?じゃねぇよ!もう放課後だぞ!それに、お前に会いたいって女子が来てるぜ』
どうやら、昼休みからずっと寝ていたみたいだ…。クラスメートに起こされ教室の入り口を見ると、そこにはエルナが立っていた。
『お前、あれって神学科だろ?可愛い子が多いけど、ガードが固いで有名なんだぜ!?何かあったのかよ?』
ちなみにガードが固いとは、口説きにくいということ。
俺はクラスメートたちの質問攻めをかわして、エルナに話しかけた。
「クラスわかったんだ?教えてないのに」
「はい…普通科に友達がいるので」
まわりの奴らが冷やかしと好奇の目線で俺とエルナを見る。
とりあえずクラスにいても仕方がないので外に出ることにした。