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『正夢』
【青春 恋愛小説】

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正夢〜鹿見護の一日〜-3

遠い記憶が蘇る。昔、ガキの頃に女の子をいじめていた。その子は左目の瞳が赤く、とても綺麗な眼をしていた。
俺は当たり前だけど瞳が黒くて、鏡の前で自分の瞳を見る度に彼女の紅い瞳が羨(うらや)ましくなった。

紅い目………、お化けの………。

たしかそんなことを言っていじめていたっけ。名前が思い出せねぇや。
本当は気になっていただけだった。彼女の瞳が、全てが幼心に好きだったんだ。

彼女は俺と友達がいじめていたら、小学二年で引っ越した。ただそれだけのこと、どこにでもあるようなガキの頃の一ページ…。




「…ですか、大丈夫ですか?」

暗かった視界に光が入る。目を開けると、さっきの女の子が俺の顔を覗きこんでいた。
起き上がろうとすると、女の子に肩を抑えられた。

「もうちょっと寝ていてください。突然倒れたんですから」
「…あぁ」

なぜか、女の子の言葉に反抗できずに頭を下ろす。だが、床に寝ているはずの俺の頭には柔らかい感触が…。

俺の目には彼女の上半身しか入っていない。ということは、この感触の正体は…。
頭を動かそうとすると、激しく注意された。

「あっ、頭を動かさないで!」

俺の視界の横に写るのは彼女のスカート。これって膝枕ってやつだよな…。想像していたら、急に恥ずかしくなった。

「なぁ…」
「はい?」
「日本語うまいんだな。いつから日本に住んでんの?」
「さぁ…三歳くらいからって聞いてます」

彼女…エルナに膝枕をされながら、恥ずかしさをまぎらわすため俺は彼女と話をした。当たり障りのない普通の会話。なのに、なんか不思議と懐かしい気持ちに襲われた。
昔からの友達のような、そんな気が…。


「エルナ…、左目どうかしたのか?」
「えっ?」
「いや、閉じっぱなしだからさ…ごみでも入ったのか?」
「…」

なぜか、エルナは応えなかった。

何故か俺たちはお互いに黙ってしまった。本当はこういう時は話をふった俺がフォローしなくちゃならないんだけど…。

(気まずいなぁ…)

そんなことを思いながらお互いに沈黙を貫く、だがエルナが先に沈黙を破った。

「…昔、私っていじめられっ子だったんです」
「…へぇ」
「鹿見さんは、私のこといじめないでくれますか…?」
「…あぁ。約束する」

エルナの顔にはなにか決意のようなものが込められていた。俺も勢いに任せて頷いてしまった。
彼女はうっすらと左目を開き始めた。彼女の瞼(まぶた)に隠された瞳があらわになった。その瞳を見て、俺は驚愕した。


「紅い目…」


彼女の瞳は綺麗な紅い色だった。
目が赤いとか、充血しているとかそういうレベルではない。
黒目の部分だけが見事に紅かった。


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