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バリ島奇譚
【SM 官能小説】

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バリ島奇譚-4

ビィラから見える波の穏やかな海の向こうには、しだいに茜色に染まりつつある空が拡がってい
る。血の滲んだような黄昏色の空ほどユリエの中を疼かせるものはなかった。
部屋にある大きな鏡にユリエは自分の裸体を映してみる。わずかに白髪が交じった髪が微風に
なびき、光に彩られた顎の肉が二重の翳りを見せている。五十歳を過ぎた裸には、蕩けるような
熟れた女がいつのまにか影を潜め、渇いた肉欲だけが滲み出しているようだった。弛んだ白い
乳房のかすかな湿り気を確かめるように掌で包み込む。ねっとりとした乳房の膨らみの先端で、
色素が褪せた乳首だけが厭らしいほどそそり立っている。いつのまにか脂肪がつき始めた下腹を
撫でさすり、白い腿の付け根の噎せるような繊毛の奥に指を這わせる。なぜか、陰部のまわりの
陰毛だけは発情したようにそそけ立ち、濃さを増しているような気がした。


十年ほど前のことだった…。あのとき四十二歳になったばかりのユリエは、このバリ島で「カワ
シマ ケンジ」と初めて出会った。彼との懐かしい記憶が、原色のあざやかな色をともなって残
照のように浮かんでくる。当時、三十八歳のカワシマは、甘く端正なマスクと小麦色に染まった
引き締まった肌をしていた。なによりもユリエは、その精緻すぎる禁欲的な姿態に魅了されたの
だった。

あの夜、ホテルのバーで、ひとりでお酒を飲んでいたときだった。少し酔ったユリエは、たまた
ま横に座ったカワシマに声をかけられた。T大学の准教授だった彼は、シンガポールでの国際学
会に出席した帰りにこの島を訪れていた。彼は自らがマゾヒストであることを告白した。
彼はユリエが以前、SMクラブのS嬢であることを知るとプレイを懇願した。そして彼と初めて
出会った夜に、ユリエとカワシマはこのビィラでプレイを行ったのだった。

彼はユリエの前に跪き、ハイヒールに接吻をし、鞭を浴び、聖水で咽喉を潤した。優雅すぎる肢
体を犬のように四つん這いに床に伏せた彼は、彼女の前に跪いたときからユリエという存在から
与えられる苦痛という快楽を、身をよじらすほど欲しがっていた。そしてユリエ自身もこれまで
感じたことがなかった狂おしいほどの愛執の情念にとらわれたのも違いなかった。

あのとき、最初に彼に与えたものは、窓辺に這っていた血色の小さな花をつけた棘のある細い蔓
だった。ゆらゆらと揺らめく海藻のような陰毛に包まれたカワシマの薄紅色のペニスが微かに頭
をもたげ始めたとき、ユリエは彼の陰茎と陰嚢に微細な棘のある蔓を幾重にも絡ませた。芳醇な
匂いを漂わせる彼の肉幹は、しなやかな蔓で縛っただけで堅さを増し、甘美な呻きを囀り、猛々
しく勃起を始めた。バリ島の海に潜む深海魚の歯のように鋭い蔓の棘が、勃起する陰茎の包皮に
突き刺さるように喰い込むと、ペニスは裂けた獣の臓物のような生肉色に爛れ始めたのだった。

苦痛を与えるほどに彼のペニスは、酷薄な情念に濡れた心地よい歌をユリエに歌ってくれた。
それは毒々しい南国の果実の色に塗り込められた恍惚とした歌だった。蔓の鋭いとげでえぐれた
ペニスの先端は鈍色の神々しい光芒を放ち、張りつめた亀頭は湧き上がる泉で溺れていた。

ユリエの中に溜まりすぎた蜜汁の密やかな蠢き…。蠢きは、カワシマを責め、舐め尽くす欲情と
なり、欲情は南国の太陽のように燦爛と輝きながら色合いを変え、凝縮され、爛れた果実の中で
孵化した。鋭く尖った棘でペニスを串刺しにされる苛酷な責め苦を欲しがる男ほど、ユリエの
渇ききったからだと心を、黄金色のバリ島の黄昏のように色鮮やかに染め上げてくれるものはな
かった。


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