投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

バリ島奇譚
【SM 官能小説】

バリ島奇譚の最初へ バリ島奇譚 0 バリ島奇譚 2 バリ島奇譚の最後へ

バリ島奇譚-1

…SMプレイにおいて、マゾ男性の究極の願望のひとつとして「去勢」、いわゆる「男性器切断」
があり、切断部位としては、睾丸のみの摘出、睾丸と陰嚢の切除、亀頭切断、陰茎切断などが
ある。著名な精神学者F…は、著書の中で男性の去勢への願望について触れている。去勢という
《精神的夢想とも言える願望》が、マゾヒスト男性をより強く被虐性へと動機づけする以上に、
マゾ側の男性だけでなく、サディスト側の女性にも性的抑制という自虐的願望を引き起こすこと
はあまり知られていない。SM関係にある男性側にしても女性側にしても、外面に対して放たれ
る性欲を内面に滞留させる、ある意味では禁欲的な隷属状況におくことで、異性間の精神面での
SMの関係性が深められ、より深い性の倒錯欲が充たされるとも考えられる。男性器切断は性交
以上に精神面と肉体面で男女の究極の性愛の関係となりうるかもしれないという皮肉な可能性を
持っているとも言える…(あるSM辞典より引用)


私が「タカミザワ ユリエ」さんと久しぶりに会ったのは、五月の風が心地よい昼下がりだった。
六本木の喫茶店で向かい合ったユリエさんは、すでに五十歳をすぎているというのに、真っ赤な
ノースリーブのブラウスと黒のタイトなスカートが良く似合い、今もまだスリムな身体はとても
魅惑的だった。以前は長い髪をしていたが、今は短く切っていた。目尻にやや皺が見られるが、
以前と変わらない魅惑的な顔立ちは、かつてハードなプレイを好んだ元SMクラブのママには
とても見えなかった。

私が彼女を知ったのはもう十数年ほど前になる。当時、私はM男性専門のSMクラブ「ルシア」
でS嬢として働いていたが、ある整形外科クリニックの女医でもあったユリエさんは、夜は「ル
シア」のママというもうひとつの顔を持っていた。彼女は私より七歳ほど年上で、当時はユリエ
女王と呼ばれ、M男性の肌に血が滲むようなハードなプレイで有名だった。鮮血鞭や蝋燭責めは
もちろんだが、乳首の針責めやペニス責め、煙草の火責め、電流責め、射精管理…ありとあらゆ
るプレイを自由に使いこなす彼女のハードなプレイは、私にはとても真似ができない、目を背け
たくなるような容赦ないプレイだったが、彼女には真性M男といわれる常連の客がかなりいたよ
うだった。

ユリエさんは、これから旅行に出かけるのか白いボストンバッグを傍に置き、しなやかに伸びた
脚を組み、コーヒーカップに細い指を添えた。彼女の肌は年齢を感じさせず、艶やかな色合いと
しっとりとした潤いを感じさせた。

「舞子さん、ごめんなさいね。急に呼び出したりして。私、これからバリ島に行くのよ。向こう
での結婚式の準備があってね。ええ、彼は仕事で行けないから私ひとりなの。ちょうど私のクリ
ニックも移転して改装工事をやっているから、ちょうどいい時期だったわ」

私がユリエさんから結婚の話を聞いたのは一か月ほど前だった。

「ええ、年甲斐もなく今さら結婚なんて恥ずかしいわ。それに彼は年下で四十五歳。確かあなた
と同じ年齢だわ。おかしいでしょう」
おだやかな笑みを浮かべたユリエさんは、薄い口紅をひいた唇からコーヒーをわずかに啜る。彼
女はこれまで結婚したことはなく、ずっとひとりだったらしい。私がSMクラブ「ルシア」を十
五年前にやめたあとも、ユリエさんはクラブをしばらくやっていたが、それも七年前にやめたと
いうことだった。


バリ島奇譚の最初へ バリ島奇譚 0 バリ島奇譚 2 バリ島奇譚の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前