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バリ島奇譚
【SM 官能小説】

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バリ島奇譚-3

…うっ…ううっ…

眠っているというのに男は微かな嗚咽を洩らした。鈍い光を含んだメスが彼の弛んだ垂れ袋を
こねまわす。ぬるぬるとした睾丸が、メスの腹で刺激されるように垂れ袋の中で滑るように淫猥
に蠢く。どこからか木霊のように聞こえてくる男の快感とも苦痛ともとれる嗚咽にユリエの中が
少しずつ湿ってくる。

尖ったナイフの先端が男のペニスを刺激するのか、ふたたび彼のものは頭をもたげようとする。
ユリエは肉樹の勃起を遮るように少しずつ強くナイフを肉幹に押さえつけていく。その肉の感触
から伝わってくる愉悦に充たされたように、ユリエは酩酊をともなった性の幻惑にまどろむ。男
は締まった太腿の内側を悩ましく強ばらせ、象牙色の胸部を仰け反らせる。赤みを帯びた肉棒は
メスの先端で捏ねまわされほどに、びくびくと小魚のように撥ねる。

無防備な肉棒は、メスでいたぶられるほどに包皮がねじれ、その赤くなった生肉がまるで魚の臓
腑のような色に変化し、眠っているというのに激しく勃起しようとする。彼の性器をいたぶる嗜
虐の甘美な憧憬が、しだいにユリエの花芯に蜜を溢れさせ、痺れるような疼きで膣襞を小刻みに
震わせる。すでに彼の亀頭の鈴口はえぐれ、赤い色素が斑に発し、薄く青い筋の入った包皮がし
っとりと透明な樹液で濡れ、ヌラヌラとした光沢を放っていた。

そしてユリエはメスをゆっくりと彼のペニスの根元に強くあてた。その瞬間、歪んだ男の顔は、
すっと血の気がひいたように甘美で穏やかな表情へと変わっていくのだった…。


………


ユリエが気だるい夢から覚めたとき、バリ島行きの飛行機はすでに眩しい光を含んだ南洋の海の
上空で低空飛行に入っていた。目的地まであと三十分というアナウンスが機内に流れる。眩暈が
しそうな原色の風景が窓ガラスの外に映し出され、その鮮やかな色合いを見ているだけで、ユリ
エはからだの奥に微かな疼きを感じていた。彼女は久しぶりにインドネシアのバリ島を訪れよう
としていた。


烈しい炎が巻き上げる火の粉の紗幕が夕闇の空を覆っている。腰布だけを巻いた上半身裸の大勢
の男たちの肉体が渦を巻き、悪霊の呪いに対して絶叫する。その怒濤のような叫びが黄昏の天空
を切り裂くように響きわたる。円陣を組み、掛け声とともに手やからだが波のようにうねり、
妖しい踊りは狂ったような激しさを増す。

…ケチャ、ケチャ、ケチャ…と血色の炎への絶叫に包まれた踊りは、複雑なリズムを刻み、くね
り、うねる。男たちの艶やかな光沢を浴びた肉体は烈しく揺れ動き、精神と肉体の自我そのもの
が忘我状態となっている。

バリ島の舞踏「ケチャ」は、悪霊を追い払う呪術的な性格の舞踏とされ、インドの叙事詩から題
材をとった物語と結びつき、現在の様な形になったと言われている。ガムランの音がまるで金色
の火の粉と混ざり合い、渦を巻きながら、バリの空を震撼させる。チャクラのリズムとガムラン
のリズムが呼応し、男たちの生々しい肉体の渦にユリエは身も心も酔いしれていく。神々の聖な
る踊りは、やがて彼女の中の情欲を深くえぐり、擽っていくようだった。その中のひとりの若い
男の顔に、ユリエはふと飴色に浮かび上がる彫りの深い眩惑的なペニスを思い浮かべた。そして、
彼女は、クトゥという名前のその男を買った。



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