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バリ島奇譚
【SM 官能小説】

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バリ島奇譚-5

カワシマとは初めて会ったというのに、ユリエは責めあげる彼のからだから漂ってくる芳醇な肉
の匂いに魅了された。優雅に潤んだ瞳、物憂い唇、穏やかな海のような広がりをもつ胸肉、引き
締まった肉の翳りをもつ胴体…。甘美すぎるほどの彼の肉体に、ユリエは自分の中に潜む、懐か
しい性の狂乱の気配を確かに感じとったのだった。カワシマはこれまでユリエがプレイを行った、
どんな男たちとも違っていた。彼の恍惚とした肉体に対する彼女の嗜虐心は、どこまでも甘やか
で澄みきっていた。



ビィラの一室で心地よい椅子にもたれ眠り込んだユリエの脳裏に遠い記憶が浮遊し、黄昏色に
包まれた海風が夢の縁を優しく撫でていく。

不意に目を覚ましたとき、扉をノックする音と同時に部屋に入ってきたのは、ユリエが買った
クトゥというバリ島の男だった。目の前にしたクトゥの若い肉体から流れてくる甘酸っぱい体臭
が、ユリエの鼻腔を心地よくくすぐる。

水草で編まれた椅子に深々と腰をおろしたユリエは、ゆっくりと煙草に火をつけた。クトゥは
ぎこちない笑みを浮かべると、ユリエが命じたとおり彼女の足もとに跪く。彼はこの島の男たち
とは違い、彫の深い端正な顔立ちをした小柄の若い男だった。腰布だけを纏った彼の浅黒い肌は
艶やかな光沢を放ち、露わな胸は反り上がったペニスのような滑らかな隆起を描いていた。何よ
りも彼の肌の隅々から甘く濃厚な果実の匂いが漂っていた。

ユリエは用意していた紅色の首輪をクトゥの首に嵌めた。彼はそうされることに何の躊躇いも戸
惑いもなく、首輪を受け入れた。

「とってもよく似合うわ…」
そう言いながらユリエは彼をベッド導いた。首輪をしたクトゥが彼女の下着を愛おしく脱がせて
いく。彼には、愛する恋人がいるというのに自らの性をユリエに売りにきたのだ。お金のためだ
という。お金のために身も心もユリエに尽くすことができるという。彼はユリエのブラジャーや
ショーツを、まるで大切な恋人の下着のように愛おしく脱がせてくれた。こんなに愛おしく男に
下着を脱がされたのがいつだったのか記憶をたどるが想い出せなかった。

彼の細い腰にぴったりと吸いついた赤く薄い腰布の中が、こんもりとしたふくらみを孕んでいる。
すでに彼のものは、ユリエに対して堅さを含み始めている。ユリエはそのふくらみに頬をすり寄
せた。肌触りのいい生地の下のふくらみに、ユリエは男のからだが含む猥褻な体温を感じた。


灼熱の太陽が沈み、黄昏の光がほのかにゆるんだ琥珀色の部屋の明るさは、ちょうどよい明るさ
だった。互いの裸の隅々を晒すには、明るすぎても、暗すぎてもだめなのだ。部屋から見える
菫色に染まった海の彼方から湿った風が心地よく吹いてくる。椰子の実の甘さを含んだ匂いが
クトゥの肌から絶えることなく漂い、ユリエはいまにも気が遠くなりそうだった。

…アイシテイマス、アナタヲ トテモ アイシテイマス…

端正な顔をしたクトゥは薄い笑みを浮かべながら、ぎこちない日本語でそう言った。おそらく彼
は、昨夜も愛する恋人とセックスをしたに違いない。それなのに、彼はユリエを愛することがで
きるという。その不可解な理屈に彼女は思わず苦笑した。彼は濃い睫毛の中を潤ませ、何度も
ユリエに愛の言葉を注ぐ。



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