まことの筥-8
だらしなく開いた足を付いて腰を揺らした岩瀬が口端から涎を垂らし訴えると、唐崎は岩瀬をひと睨みしたあと、姫君の方を振り返り、今日はこのような身の形でございます、と毎夜違った体位を教えた。仕え人といえど雑夫に姦される謂れはない唐崎は、花唇から夥しい蜜を漏らし、濡れて海松布のように萎った畝を割られて肉竿をねじ込まれる。姫君へ教えるために冷淡を保とうとして、しかし異様な場所で異様な男に抱かれる己に奇妙な欲情が溢れてしまっている姿が艶かしく、姫君以外の二人の観覧者をまるで自分が姦されているが如くに欲情させた。姫君は時々少し近くに寄って、出し入れが繰り返されている接合を覗き込みながら、何故これだけ擦れて外に漏らしても潤いが止まぬのか、いったい中はどうなっているのか、今岩瀬は何を思っているのか等々を素朴に問うた。岩瀬は交接してすぐは姫君の問いに答えるが、やがて気が高まってくると喘ぎに邪魔をされて、的を射ぬ答えを返してくる。
一度、掉尾に入った岩瀬が顔を歪めた時、唐崎がさっと身を離して鈴口から男の情欲を噴き上げる姿を見せたことがあった。男の喜悦はこの時こそ限りない、と唐崎は岩瀬の幹を握り、余韻に慄く肉茎を扱いて彼を悶絶させながら姫君に説いた。塗籠の板床に澱んだ玉雫となって撒き散らされた滴の様と臭気に顔を顰めた姫君は、これがまったく汚らしいものとしか思えてならず、したがってそこへと導く唐崎の秘壺もまた汚らわしい、ひいては男と女の愛の現し姿が、こんなにも汚らしい営みであることが嫌悪されてならなかった。
「そうお思いになるのも致し方なきこと。ですが、いずれ姫様も、いずくかの殿方と為さなければなりませぬ。そうでなければ生きていけませぬ」
唐崎は真摯な面を向けて言い諭した。
「いやよ。どう見ても汚いとしか見れないもの」
「いいえ、姫様。世の女君はこうして栄を導いているのです。――権門の姫君だけではございませぬ、わたくしたち仕え人であっても、都の外に住まう民にいたしましても、男と女でございます限りは、皆、為していることでございます」
「皆?」
「はい」
姫君は平中と侍従を思い出した。あの者たちを見て以来、姫君にとっては世の中で最も美しい男と女だった。ということはつまり、平中はあれだけ綺麗な顔立ちをしていながら、侍従を恋い慕って、そしてこの汚らしい行いを遂げたく思っていることになる。
――また平中が姿を現した。姫君はかの女童を召して着物を奪うと簀子に出た。平中は朗らかな笑みで、どうだい綺麗だろう、と綾の施された布を見せびらかし、姫君が満足して受け取ったのを見届けると、すぐに文を手に握らせた。
「この屋敷で最も美しい人はわかったかい?」
「はい」
「うん、わたしの思っていた通りの賢しい子だ。必ずこの文を渡してくれよ。そして必ず、お返事をもらって欲しい」
「ですが……、侍従様はお返事の筆はお取りにならぬとお聞きしました」
「うん、そこが肝要なところだよ?」
平中はまた扇で口元を隠し、流し眼を向けてきたから姫君はときめいた。とても真正面から受け止めてはおられず俯くと、簀子に半身を乗っている平中の指貫が見えた。この悩ましい瞳を向けてくる貴公子にも、岩瀬のあの汚らしい肉茎と同じものがついている、そう言われても到底信じられなかった。あるいは、この平中という男に限っては、大輪の花のような芳わしい何かが付いているのかもしれない。塗籠の中で茫とした灯りに照らされて、砥粉色に板床の上で澱み揺れていた不浄の雫など、この平中が御身から吐き出す筈がない。姫君にとってはそう考える方が納得がいった。