投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

まことの筥
【二次創作 官能小説】

まことの筥の最初へ まことの筥 8 まことの筥 10 まことの筥の最後へ

まことの筥-9

「泣き落として欲しいんだ。いくら私に対して冷淡なあのお方でも、君のようにみすぼ……不憫な子供に泣きつかれたら、捨て置くわけにはいかないだろう? 特に、君は今、髪が焼かれてしまって、とても可哀想な姿になっている。同情を引くには絶好だから」
 そう言う平中に頭を撫でられて心地よくなった姫君は、対の中に戻ると侍従を呼び出した。
「まぁ、これは」
 侍従は片眉を吊って姫君から差し出された薄葉を見た。顔の端々に浮かぶ平中への軽蔑。「……いずこで?」
 姫君が平中の懸想文を手に入れた経緯を知らぬ侍従は、礼を失しないまでも姫君に向かって怪訝な上目遣いを見せた。少し自分を恐れている? 澄ました居姿も目を惹く人だが、こうして惑っている姿は本当に綺麗だ。姫君はそう思う自分に驚いた。まさか対の主が直接平中の取継をするわけはないから、この文がいかなる経路を辿って手に渡ったのか、侍従は様々な想像を働かせているのだろう。しかし合点のいく答えに行き着かぬ。そんな侍従を見ていると楽しかった。女童を装って会っていることを教え、またあの燦爛とした笑顔を見ようと思っていた姫君だったが、望外の喜びに黙っていようと決めた。そして――。



 侍従の顔は昼間に比べて更に崩れていた。それほど広くはない塗籠に五人も入り、女主たる姫君にはゆるりと寛げるよう茵を持ち込んでいるから、残された者は更に狭い中に居ることになる。燈台の炎の影が壁に揺れる中、二人の付女房は端に控えていた。そして唐崎と岩瀬が体を重ねようとしている。
 特に野卑で汚らしい男が、こんな密した部屋ですぐ近くに居ることが侍従を怯えさせていた。無理もない、と姫君は思った。こうして並べると、同じ人という生き物かと思えるほど侍従と岩瀬には見目の違いがある。
「ほおっ、っぐ」
 しかも膝を開いた岩瀬は唐崎によって真ん中に漲っている黒茎を扱かれ、獰猛な獣の声を上げていた。垢じみた腹に飛び散る汁が灯に煌めいている。岩瀬の淫情の塊も侍従を身震いさせるが、加えて、布で汚れを拭っただけのそこへ指を這わせ、握り込んでは弛緩と緊縮を繰り返す嚢へ唇を這わせる唐崎の猥行が、より悍ましく彼女を苦しめていた。できることなら退散したい。しかし大臣の姫の命とあっては居らぬわけにはいかない。侍従は途中からとても見てはおれず、顔を伏せて肩からその絹糸のような髪を垂らし、板の目をじっと見つめていた。
「うおぉっ、た、たまりませんなぁ。こ、こんな美しい方に見られていては、いつも以上に猛って……おぉ」
 肩と足裏をしっかりと床に付いた岩瀬は、唐崎によって体に付いた取手を引っ張り上げられているように股を上に突き上げる。
「これ、まだ終わってはならぬ」
 唐崎が寸でのところで戒めると、岩瀬は唸り声を放ちつつもどかしげに腰を揺らした。
「……ねえ」
 脇息に身を凭せ、唐崎と岩瀬ではなく侍従を見ていた姫君は、彼女に声をかけた。驚いて一度首を窪めた侍従は、戸惑った面を姫君に向ける。
「あなたも、こういうこと、したことあるの?」
「……え、いえ、その……」
 侍従の、あの冷たい唇が震えていた。いつも誇っているかのように上がった口端が、下唇を食んでいるために下がっている。何という美しい顔をするのだろう。姫君は悦に入って彼女を見やりつつ、
「聞きたい。教えて」
 しかしながら厳しい口調で質した。
「……、……ご、ございます」


まことの筥の最初へ まことの筥 8 まことの筥 10 まことの筥の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前