享楽1-4
岩井がいなくなると部屋が広く感じた。
奈津子は鏡の正面を――こちらを――向く。頬も、耳も、目も真っ赤だ。鏡に映る自分の顔を見るが、すぐに視線を落とす。義雄は渾身の力を振り絞り手を伸ばした、が、すぐに力尽きる。惨めに横たわることしかできない。ソファーに押し当てた頬が濡れている。
戻ってきた岩井はタオルを持っていた。それを奈津子の頬に宛がった。タオルが膨らんでいるのは氷でも入っているのだろう。
「本当はこの体はあまり傷つけたくないのだ」
未だふんどしからはみ出しているペニスを隠そうとはしない。
「しこたまワインを飲んだせいか、年のせいか、今さっきしたばかりだが、また小便がしたくなった。食ったばかりだが、腹も減った。うーん、惚けがきたのかのう」
ゴキゴキと首をひねり回し、ドンドンと足音を響かせ、再びその部屋から出て行った。
しばらくして岩井が義雄のいる部屋に入ってきた。テーブルからたっぷりと食べ物がのった大皿を持って近づいてきた。相変わらずふんどしの脇からグロテスクな陰部が残らず顔を出している。ぐったりしている義雄の顔の真上にその逸物が垂れ下がった。遠目で見たときとは違い、至近距離で見たあまりの大きさにギクリとする。先ほどより膨らんでいるような気もする。睾丸もろともそれが下着に収まっていることも信じられない。
ペニスの先端に水滴が見えた。それが滴り顔をかすめた。にじみ出るように、また水玉が生まれた。渾身の力を振り絞り、滴りを避けた。
奈津子は一度だけこちらを向き、当てたタオルをはずして確認したが、すぐに背を向けた。顔をゆがめ、タオルを頬に当て、片手でおなか辺りを押さえ、たたずんでいる。その様子を岩井は目を細め、見つめていた。
義雄の顔の上でペニスを握った。今度は逃げ遅れ、水滴が頬に落ちた。義雄は声にならぬ悲鳴をあげる。岩井は義雄を一瞥すらしない。ガラス枠の向こうを見ながら、それをゆっくりとしごき始めた。
「一介の会社員の妻にしては品はある。顔か、体つきか。所作かのう。昼は夫の前で清廉を装い、夜は強い男の腕の中でのたくる。白昼も考えることは強い男のマラのこと。うーん、しかしそうは見えん。恐ろしいのう」
睾丸をもみしだき、ペニスをこねる。剛毛がジャリジャリと音をたてる。
「これが天を向けば、いやというほど可愛がってやれるのだが。如何せん、このとおり。困ったのう」
大量の食べ物がのった大皿を持って出ていった。
再び岩井が現れると奈津子は防御するかのように両手で体を抱いた。岩井は先ほどと同じ位置に腰掛ける。奈津子はずっと立ったままであった。サイドボードに手を伸ばし、葉巻をつかんだ。その間に奈津子が岩井の前にひざまずいた。
義雄の頭の中が霧がかかったようになる。
奈津子の胴回りよりも太い、大木のような太ももの間に身を入れた。
涙で視界がぼやけ、意識ももうろうとしてきた。
「こうして鏡で見ながらお前にしてもらうのが楽しみでな。これからもずっとジジイを慰めてくれるとありがたい。体をずらしなさい」
奈津子が体を斜めにした。岩井は己の股間を正面から見ることになる。むろん義男からも。奈津子が萎れた状態のペニスを手にのせたのが見えた。
やめてくれ……。
重たげであり、両手でつかんでも有り余るほど大きい。大股開きで笑う岩井と視線が合った。
薬物を使用した理由は拘束だ。初めからこうするつもりだったのだ。夫婦を蹂躙して悦に浸る岩井だが、この年齢でさすがに勃起は望めないだろう。よしんばその状態になったとしても硬度はなく持続は不可能。従って男女の関係は無理だろう。
岩井はまんまと奈津子を呼び出し、恐らく同じように薬物で体の自由を奪い――蹂躙した。性行為が無理なので、考えたくはないが、手や口で辱めたのだろう。あるいは道具。家族をどうこうすると脅されている可能性もある。さらに暴力で奈津子を縛った。
岩井は大皿にのった食べ物を手づかみで口の中に入れた。もぐもぐと口を動かし、葉巻を吸う。煙を吐きながら、食べ物を口の中に入れる。
持ち物は全てが奪い去られているので電話で助けを呼ぶこともできない。奈津子が唇をかぶせたとき、義雄は意識を失った。