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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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上司-1

 日曜日の午後からは大抵は買い物に付き合わされる。車で行くので行き先は大型スーパーに決まっている。いつもこの時間帯は混んでいるので土曜日にすればいいのに、それも午前中が比較的空いている、と思うが提案したことはない。
 家ではよくお茶を飲むので何本かまとめて買ってくる。お茶の缶入りやペットボトルが出回った頃には「この先こんなお茶は売れないな」などと、なぜ売れないかのうんちくを披露して見せたが、今ではそんなことはすっかり忘れ、冷蔵庫にお茶が入っていないと文句を言う始末であった。
 重量のおおよそがこのペットボトルなどの飲み物で、運転手件、荷物持ちと相成るわけだ。
 ちょっと前までは何が何でも一緒にくっついてきたが、最近では「今日はいいや、気分じゃないし」などど小癪なことをのたまうようになった。そんな娘だが今日は澄ました顔で車に乗り込んできた。こんなときは何か魂胆があるに違いない。
 やはり混んでいて駐車場へと車が数珠つなぎだ。ため息をついて隣を見ると妻は居眠りをしていた。バックミラーを見ると娘はケータイとにらめっこをしている。別の日にしたり、時間帯をずらしたりしないのかと本当に不思議に思うのだが、ほかの車の運転手を見ても特に苛立っている様子はうかがえず、みんな一様に平然としている。
 大型連休の帰省や行楽などの大渋滞はサラリーマンなどの休暇の都合上、しかたがないとは思うけれど、たかが買い物じゃないか――これを言うと怒られるので口が裂けても言えないが――なにも一斉に、わざわざ同じ時間帯に来ることはないだろう、と思う亭主族は少ないのかしら。
 案の定、到着したとたん娘は妻と腕を組んで離れない。魂胆が見え見えで甘える娘と呆れかえる妻の、その後ろ姿がほほえましく、そこはかとない幸せを感じていた。
 スーパーといえど、若い女の子に人気の店舗も入っている。さんざん連れ回されたので娘の好むブランドをいくつか言えるし、こんなオヤジが若い女性の着ている服や、持っている物のブランド名が分かってしまうという、驚くべき現実もある。見知らぬ若い子を指さし言い当てて見せたら、妻と娘に汚い物を見るような目つきをされたので、それいらい口を閉ざした。今日もまた一つ覚えてしまったが、言わない方が身のためだ。
「うーん、子供っぽいなぁ」
 ちょっと前までは大型スーパーのブランド店を見まくっていたが、最近はこんな生意気なことを言う。子供から大人になる過程なのだろう。そんな娘を見つめ、うれしい気持ちと寂しい気持ちがない交ぜとなる。
「ねえ、お母さん、これどう?」などと、鏡の前でポーズを作っているのが、もうすぐ高校一年生になる娘の恵。ちょっと大人っぽい派手な水色のキャミソールのひもの部分を指で摘み、体に宛がって胸を反って見せた。
「あなたには、まだ早いわ」
 そんな娘に妻の奈津子はあきれ顔だ。その横で夫の佐伯義雄は、答えを求めないで欲しい、僕は知らないよ、と言わんばかりに目を剥いてプルプルと首を振っている。
「もー、なんでだめなのぉ。友だちはみんな持ってるよぉ」
 語尾を延ばし唇を尖らせ「じゃあこっちは?」と、もう一枚持ってきたクリーム色のキャミソールをそっと摘み上げる。
「同じじゃないの。それはだめ。肌が出すぎです」
 奈津子は苦笑しながら振り返る。恵は絶望的な表情でそれをヒラヒラと振って見せた。
「このままは着ないもん」
 ニュッと恵の唇がとんがった。
「僕は知らないよ」と今度ははっきりと口にし、顔の前でブンブンと手を振った。もっとも家庭内の力関係はよく理解しているから言ってはこない。これはこれで寂しい。
「ねえ、お母さんもこんなの着たら?」
 いたずらっぽい目をする恵に奈津子はうろたえた。
「着られるわけないじゃないの」
「そんなことないよ。お母さんまだまだ若く見えるしさ、ねえお父さん」
 片方の眉をつり上げ、今度は横目で父親を見る。
「えっ、うん、まぁ」
 義雄はしどろもどろで答えた。
「お母さん肌も白いし、年の割には顔もまあまあだしさぁ、きっと似合うよ」
 断言したあと、ピストルの形にした指を義雄に向けて「男なんか悩殺よ」とのたまったのである。
 恵は調子にのって、ついでに「バキューン」と言った。時代遅れも甚だしい。
「あ、お父さん赤くなった」
「こら、親をからかうんじゃない」
 青春真っ盛りの娘にはかなわない。「まだまだとか、まあまあとはどういう意味?」と、娘とじゃれ合う妻の横顔を見つめる義雄の顔は上気していた。恵の言うとおり、奈津子は三十八才とは思えないほど若やいで見える。際立つ美人ではないが清楚な雰囲気を持ち、控え目でおっとりしたかわいらしい女性だ。俗に言うオバさんのようでは決してない。
 肌が白いと言われ昨夜のことを思い出した。二階で寝ている恵がそのことを知っているはずもないのだが、義雄は密かに動悸を高めた。暗いなか、少しずつ慣れてきた目の前に浮かび上がった、真っ白な裸体に激しく欲情した。そっと二人の顔色をうかがったが、もちろん夫のそんな胸の内を知るはずもなく、昨夜のことなど微塵も感じさせない妻は「ビキニを買いたい」などど言っている娘に腕を引かれ、うんざりした顔をしている。
 久しぶりに妻と共有した夜のことが頭から離れないでいた。後ろ姿の妻の曲線を見つめ、デパートの中で欲情している自分を恥じらっていた。
 売り場の一角を曲がり先に行ってしまう恵を目で追い、後ろの方からのんびり歩いてついていく義雄に、小さく手を振る奈津子の唇が「こっち」と言っている。そんな仕草も妙に艶っぽく見えてしまう。


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