〜 空浣 〜-2
「全然ダメ。 御淑やかに、といったでしょう。 お前はいいつけに背くのが好きね」
「もっ、申し訳ありませぇん! 下品でクサいオナラをした、だらしないオケツをお許しください!」
「御託はいりません。 もう一回躾けてあげるから、こんどこそ御淑やかにすること」
「うう……ハイ。 お、お願いします」
ギュっとこめかみに気持ちを込める。
御淑やかに、御淑やかに、御淑やかに、御淑やかに……。
しゅぽ、しゅぽ、しゅぽ、しゅぽ。
「出しなさい」
「ハイ!」
こんどはもっとゆっくり小さく開いてみよう。 音をちょっとでも抑えるためには、ガスが漏れる勢いをコントロールする以外ない。 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと御淑やかに……。
ぶぴっ。 ぴぴっ、ぶびっ、ぶりぶりぶり。
「5、4、3、2、1、そこまで」
「……っ」
そんな簡単にできれば苦労はない。 最初同様情けない放屁音が高々と鳴った。 しかも肛門を小さく開いたせいで、教官が『そこまで』と言った時点でガスの半分ほどしか放屁できていない。
「ま汚いガスをひりちらかして……しかも、全部だせっていったのに、なにそれ。 あくまで逆らおうってつもりなら、それはそれでいいのよ。 私にもいろいろ思うところはあるし」
「ち、違います! ウチは、あ、いや、私はそんなこと全然――ギャッ」
真っ青な顔で反駁しかけた途端、オレの股間に激痛が走った。
教官が、オレの充血したクリトリスに爪をたてていた。
「違いますぅ? お前誰に口を聞いてるの?」
「ひっ……もっ申し訳ありません! 私はまた下品で不潔なオナラをしました! その上オナラを満足にひりだすこともできないケツマンコです! 申し訳ありません!」
「その通りよ。 いいこと、ちゃんと出来るまで続けるから躾っていうの」
「ハイ! 私のだらしないケツマンコを躾けてくださり、ありがとうございます!」
ウチは痛みを誤魔化すために絶叫した。
さっきの空気浣腸は、まだ半分近く残っている。 当然お腹はパンプしているというのに、教官には気にする様子はない。 膨らんだ上から改めて鞴を挿入し、教官は規則正しく空気を送る。
しゅぽ、しゅぽ、しゅぽ、しゅぽ。
同じ回数だけ鞴をおされ、今度こそお腹はパンパンだ。 皮膚から弛みが失せ、針をさしたら弾けてもおかしくない。
「出しなさい」
「ハァイ!」
溢れる鼻水。 一時沈めた涙も、再び閉じた瞼から溢れてしまった。
ぼっぷぷぷ、ぶびび、ぶびぶび、ぶっしゅぅ〜〜。
これまでで一番不細工な放屁。
「5、4……」
せめて腸内のガスは全部だそう。 せめて気持ちだけでも御淑やかに、恥ずかしくないオナラをしよう。 どんな風に気張ろうとも、オナラはオナラで、恥ずかしい。 お腹が張るまで空気を入れられて、音をたてずに屁ができるわけない。 たかが『オナラ』の方法を彼是考えている時点で情けない。 それでもウチは教官がいうようみたいに、少しでも御淑やかにだせるように、一生懸命オナラしよう。 オナラの仕方を躾けてもらおう――。
「3、2、1……」
教官のカウントダウンをどこか遠くに聞きながら、そんなことを考えていた。
……。
結局、みんなの前での空気浣腸は30回以上続いた。 オナラをするたび否定され、謝罪し、浣腸され、またオナラ。 みんなにオナラを見られても恥ずかしいと思えなくなった頃、2号教官はしょうがないという体で合格をくれた。
それから、教官はうちに第2姿勢を取らせた。 膝を曲げて、ふとももとふくらはぎをつなげる。 その上で両足の踵を揃え、爪先でたつ。 足は180度ひらき、胸を張って、両手は後頭部にまわす。 第3姿勢より更に腰を落とした恰好。 いわゆる『蹲踞』で足をひらいた体勢を、学園では第2姿勢とよんでいる。
そうしておいて、腸の内容物の排出許可をだす。 つまり、みんなの前でビー玉ごと排泄しろというわけだ。 ウチは限界を超えていた。 頭は全く働かない。 自分が他人にどう映るかなんて皆目意識せず、言われるがままに教壇から腰をだし、ぶりぶりと音をたてて排泄する。 教壇の近くに席がある18番が、教官の指示で『おまる』を掲げ、ウチがひり散らかしたウンチを受け止めてくれた。
ビー玉が『おまる』の琺瑯でカンカン鳴って、所々便がはねる中、表情を変えない18番。 排泄が終わって崩れそうになったときは、ウチの体を支えてくれた。 18番に御礼をいわなくちゃならなかったんだろうけど、それすら思いが至らなくて、もう立っているのも精一杯。 溜まった排泄物を吐きだすと、茫洋と意識を彷徨わせながら席に戻り、途切れそうになる意識を保つこと。 それがウチの限界だった。