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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 補習B 〜-2

 床にあいた穴。 その奥にはつくねんと白光りする琺瑯(ほうろう)製の巨大な器。 器の中身はといえば一面茶色。 所々が団塊になり、またあるところはスープ状で。濃い茶色もあれば黒もあり、かと思うと細長い繊維や白い筋。 軟らかく盛られたものも、何日も腸で熟成されて石のように固いものも、一緒くたにされて漂っていた。両目とも視力が2.0な私には、この暗がりでも細部まではっきり見えてしまう。

 便だ。 それも、おそらくは人間の、少なくとも10人以上が排泄した汚物が溜まっていた。

 鉄板がなくなり、私の上半身は、背筋運動をする恰好で宙にういている。 
 簡単な話だ。 誰が、いつ、何を食して排泄したともわからぬ汚物に顔をつっこみたくなければ、背筋をめいっぱい縮め、上半身を浮かし続ければいいのだ。

 フッ。 掴まれていた髪が離れた。 

「っ!」

 カクンと折れそうになる体を後背筋で繋ぎとめる。 床の穴にのめり込む直前、体を浮かせる。
 息をするたび、鼻から喉までピリピリする。 胃の奥から酸っぱいものがこみあげる。  
 絶対に力を抜くわけにはいかない。 臭いを嗅ぐだけでも気が遠くなりそうというのに、このまま顔をつければ正気じゃいられない。 何としても、顔だけはつけずに耐えるしかない。


 補号教官が起きあがり、ガチャリ、小部屋の扉がしまった。 豆球が濁った光を照らすだけの、異臭にあふれる部屋には、今や私だけが取り残されてしまう。

「くっ、うっ」

 私は歯を食いしばった。 気を抜いたつもりがなくても、臭気を吸うたびに1ミリ、また1ミリと顔が下降する。 少し、また少し異臭が強くなる。 目が暗がりになれ、便の群れが再び私の網膜に迫る。

「ううっ……!」

 一人ぼっちになってから、3分ほど経っただろうか。 この姿勢で一体どれだけ耐えられるだろうか。 10分なら耐えられる。 15分なら……やってみなければわからない。 30分を超えるなら到底耐えられそうにない。 とにかく刺激を与えずに、力を貯めて静かに集中するしかない。 
 最後まで嘔吐せずにいられるだろうか。 この姿勢のままで嘔吐すれば、どうしたって力が抜ける。 吐瀉物とともに私は器に突っ伏すだろう。 どれだけこみあげるものがあっても、なんとかして抑え込まなければ。 どうすれば私は解放されるのだろうか。 耐えて耐えて、助けを求めず、取り乱さずにいれば私の姿勢を認めてくれるのか。 つらい顔は駄目だ。 いままでずっとそうだった。 この学園では過酷な課題であるほどに、私は笑顔を要求されてきた。 つくり笑顔を見せ続ければ、これまでのように、突然助けが訪れるのか。 いつになったら補号教官は私の拘束を解いてくれるのだろうか。 せめて15分……それくらいなら、やってみる。 

 5分が過ぎる。

「……」

 笑顔で、冷静に。 私にはこの訳が分からない、人を人とは思わない扱いをのりこえるしかない。 
「っ……っ……っ……」

 おそらく、鉄板が外されてからすでに10分は経過した。
 背中がビクビクと波打つ。 プルプルと痙攣し始めたと思うと、あっという間に限界は来るのだ。   
 体を支える腹筋も同様だった。 すでに息をすることもキツく、少し息を吸おうとするだけで胸や口がカクカクと震える。

「いっ……ぎっ……ひっ……!」

 体感では15分が過ぎようとしている。
 笑顔は限界を迎えた。 黙っていることもできない。 せめて冷静でいなければならないのに。
 そもそも、私は解放されるのだろうか? 私の拘束は解かれるのだろうか? 埒もない、それでいて本質的な疑念が脳裏をかける。 

 どうして、こんな仕打ちを受けなければならないのだろう? 幼年学校で首席をとって、最悪の合宿を経て、入学初日、担当の教官と初めて会って、よくわからないうちに目をつけられて、よくわからないうちに一人だけ連れ出されて、私の何がいけなかったのだろう? 瞼の奥から熱いものが溢れてくる。

「うぅ……っ」

 ポタリ。 久方ぶりの涙。

 ビチャ。 涙を受け止める茶色の塊。

 駄目だ。 体中の筋肉が限界だ。 これ以上どうしたって支えられそうにない。

「……」

 私は目を閉じた。 ギュッと、ギュウッと、できるだけ強く目を閉じた。
 せめて瞼から汚物が入り込まないように――そして、体から力を抜いた。


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