4.月は自ら光らない-14
そんなことするわけない、と訂正したくても、クリトリスを襲う振動と、絶頂の手前で巧みに紅美子を留めている指遣いに翻弄されていると、
「ひゃうっ……!!」
息詰まっていた紅美子の声を導いたのは、Tバックのようににショーツを捩って食い込ませ、横に強く引かれてズラされて剥かれたヒップの中心に押し当てられた唇の感触だった。クリトリスはローターに、入口は指に責められている。井上の唇が接したのは更にその後ろの菊門だった。
「な、なにっ……、何してんのっ! ……やめてっ!」
尖らせた舌が菊門を突き、閉まった皺を小さな円弧でなぞってくる。シャワーも浴びていない場所に唇を接されて発狂しそうだった。だが、その狂気寸前の中で受ける不思議な感覚が、前で紅美子を悦ばせる二箇所をより鋭敏にしていく。やっ、と小さく悲鳴をあげて、舌先が菊門をノックする度、紅美子は脚を震わせてヒップが締めた。
「……感じるのはいいが、変なもの出さないでくれよ?」
下品で最悪な揶揄が狭間から聞こえて、顔面が焼け落ちてしまうほど熱く紅潮する。
「っくっ……、やめてっ……」
「ここはイジくられたことない……、だろうね。徹くんにそんな甲斐性があるとは思えない」
「あ、あたりまえでしょっ……!」
唾液でヌルヌルになった菊門を、媚壺に埋めている手で余っていた親指で擽り、
「……まだ徹くんには、ナマでさせてあげてないんだろ?」
と、ともすれば指を挿れてきそうなほどに突っつと同時に、濡れそぼる内部を撹拌いてくる。
「……っ、だっ、だってっ……」内部を抉られる愉楽と菊門を弄られる羞恥のせいで、井上に問われるままに、「わ、私がさせないわけじゃないっ……、徹が、し、してくれないだけっ……」
と、実情を吐露してしまっていた。
「徹くんは君が許してくれるまで律儀に約束を守ってるだけだろ? 君が許してやってないからだ。僕には全部ナマでさせてるくせに、可哀想なフィアンセ君だな」
「ちがうっ……、ち、ちがう……」
「……オマンコをナマでさせないんなら、こっちでさせてあげればいい。こっちなら、徹くんがナマでしたって、君が嫌いな子供ができるなんてことはない」
「……っ!!」紅美子は大きくかぶりをふって、「徹を、バカにしないでっ……!」
不義の相手には許してやっているのに、愛する徹は代替の場所で我慢させる。徹が貶められる憤懣に、激発的に非難した紅美子だったが、すぐに、この男の言う通り、徹はをそんな扱いに止めているのは他ならぬ自分自身である事実に罪悪感の刃が身の至る所を刺貫してきた。
「僕が開発してやろうか?」
井上が再び菊門に唾液を滴らせて舌で擽ってくる。尖らせた舌が、菊門を押し開いて中に入ってきそうな勢いに、紅美子は呻きを漏らして大腿に力を込め、ヒップの狭間を閉じ合わせようとするが、舌を押し返すほどの力が出ない。
「やっ……、そこは、絶対イヤッ!!」
「……じゃ、オシッコしてみせてくれ」
菊門にディープキスを浴びせ、貫いた指が卑猥な音を立てる。もう一方の手は前に回されて、ローターを上下に強く擦りつけてクリトリスを弄ってきた。「緩んできてる。早くしないと舌が入ってしまうぞ?」
「んっ……」
出せと言われて、この状況で、――こんな場所で、こんな姿で尿意などすぐには訪れない。「そんな……、す、すぐに……」
「こうしたら?」
どちらの手のどの指かもう分からなかった。もう一つ指先が追加されて、ショーツの中にねじ挿れられて振動に嬲られているクリトリスのすぐ下の小さな出口を細かく擽っただけでしぶきを上げて潮が漏れ出た。
「……んっ、や……、服、汚れちゃうっ……」
「もう潮でいっぱい汚してる。……カバンに替えの下着、入ってるんだろ?」
事実を指摘されて、紅美子は唇を噛んだ。いつも井上に会う度に、もう一度履くのが躊躇われるほど甚だしく下着を汚してしまうから、最近はいつも替えの下着を持ってきていた。事後のシャワーを浴びる際に履き替えているのを、気づいているのに井上は指摘してこなかった。マナーだと思っていた。だが今こうしてあからさまに言われると、「家を出る時からそのつもりで来ているんだろ」と言われているような気分になって恥辱に苛まれる。
「……あ、っ、く……、ほ、ほんとにするの……?」
「ああ。……イキながらしてくれ。……イカせてやるから」
イカせてやる。井上の言葉に、反射的に体中が痺れた。期待感で安直に体が反応を示し、小孔を擽る指の向こうで尿意が巻き起こってきた。
「……イカせるぞ?」
菊門に口づけしたまま井上が話す。尾骨の近くを髭がチクチクと擦って、本当にそんな不浄の場所を舐められていると思い知らされる。尿意はもう寸出のところまで来ていた。紅美子は壁に手を付き、髪を揺すって頷いたが、
「返事は?」
と念を押されて思わず、
「イカせて……。だ、出す……、か、ら……」
と答えてしまっていた。井上の指が激しく動き出す。「うあっ……! あっ……、イク……、だめ、イッちゃうっ……」
「いい。思いっきりイッて、思いっきり出してくれ」
「……うああっ! イク……、出るっ」