2.湿りの海-17
(んっ……)
声が出そうだった。歩いている間に股間の奥から音を立ててしまいそうだ。ムスクの香りが近づいてくる。井上の眼から目線を外すことができない。
組んでいた脚を崩して開かれた膝の間に立つ。
「……何ソレ。なんで勃ってんの? キモい」
井上の脚の間では男茎が力強く上向いて、脈動に小刻みに動いていた。井上の手が前を閉めていないガウンの中へ、麗しいウエストから脚へと体の側面を撫でてくると、それだけでビクンッと肌が戦いてしまう。
「カレシにウソをついてるところを見せつけられたら興奮するのは当たり前だろ?」
「……くっ、……あんたがつかせたクセに」
脚の内側を撫でて手が上ってくる。触らせてはいけない。触られたら、期待に秘所が潤んで井上を待ちわびているのを知られてしまう――。指がヘアを撫でるように柔門に触れてなぞりあげてくるのと同時に、紅美子は井上の肩に手を置いて爪を立てた。
「痛い。……爪で引っ掻くせいで傷だらけなんだが」
「……っ、……お、奥さんに見つかって困ったら、いいっ……」
紅美子は膝を折りそうになりながら、井上に更に爪をめり込ませ、辛うじて立っていた。暫くピチャッ、ピチャッという淫らな音だけが部屋に響く。やがて井上に腰に手を回され、更に引き寄せられると、よろけながら紅美子は井上の脚の上に跨って乗せられていく。しかもそれ合わせて指が中に入ってきた。
「あうっ……」
声を上げて井上の首に頭に手を回してしがみついた。すぐ下からあの視線で見上げられている。そう思うだけで井上の指を締め付け、熱い蜜を滑り付かせていく。
「キスしよう」
「イヤ……」
薄目を開くと指を動かしながらずっと井上が見つめてきていた。吸い込まれるように紅美子は自ら頭を寄せ、井上の唇に奮いついた。髭が口元に擦れる。舌を差し入れて、井上が誘い込んでくるままに絡め、溢れるヨダレを流しこんでいく。その間にも内部を擦りあげてくる指に向かって、音が立つのも構わず腰を前後に揺すって押し付けていた。
「安心しろ」
「……は?」
ヨダレの糸を引いて離れ、潤んだ瞳で見つめると、井上は紅美子の首元や肩にもキスをしながら、
「ドバイの本社に顔を出したら、また戻る予定だ」
「別に、そんなの……」
だが、井上の言葉に全身が安堵をに包まれているのは否めなかった。その言葉を聞いて、指が擦る度に体が歓喜の反応を示しているのが自分でも分かる。
「再来週の土曜日にね。……残念、徹くんに先約を入れられてしまった」
手を頭に回され髪を撫でられると、力が抜けて井上の脚の上に腰掛けて完全に体重を預けた。
「……また呼び出すつもりなの?」
「もちろん。……君は最高だ。こんな女には会ったことがない。離したくないからね」
またキスが始まっていた。キスの狭間で会話しながら、紅美子は無意識のうちに、二週間後にこの男にまた呼び出された時、徹に何て言おう、と考えていた。その発想に自ら気づくと、自己嫌悪に苛まれたが、それがむしろ蝕んでくる疼きを更に体を燃え立たせていた。
「来るんだろ?」
「……行かない」
「いや、君は来るね」唇が勃起した乳首をはみ、引っ張ってくると背中がのけぞった。「きっと来る」
「行かないってばっ!」
バストを吸わせて井上の頭を抱き寄せて更に押し付けていた。中から指が引き抜かれていく。その手が紅美子の手首を掴み頭から外させると、そのまま下腹部へと引き寄せられていく。
「え、ちょ……」
井上に手を添えられて、指が自分のヌルヌルになった恥丘に押し当てられ、井上に操作される指がクリトリスをするりと撫で上げた。
「んあっ……」
「自分でしてみろ」
「やっ……、何させんのよ……」
「触ってるところが見たいんだ」
耳元で低い声で囁かれると、指を離すことができなくなった。「ほら、どうやったら自分が気持ちいいか、わかるだろ?」
「んんっ……」
指が触れた瞬間クリトリスがなおの愛撫を熱烈に求めてきて、紅美子は指を動かさないではいられなかった。縦になぞりあげて雛突をこねると一気に広がる甘い疼きに、次なる快感を求めて指を強く速く動かしていく。
「いいぞ、イヤラしくて」
井上が耳元で煽ってくると羞恥が増すが、指はもう緩めることができない。下唇を噛んで声は漏らすまいと忍んだ。井上は紅美子の体を横抱きに自分の上に抱え上げ、片脚を床に、もう一方を肘掛けに付かせて大きく開かせた。クリトリスがより触りやすくなった分、その姿も見られやすくなって羞しみが増した。
「いつも何を考えながらそんなことしてる?」
「……こ、こんなことしないっ……、っ……、し、したことない」
「じゃ、今日おぼえといたほうがいい」