その(5)-1
高級旅館の離れで小山内は何もかも忘れて結衣にのめり込んだ。
(ここには誰も来ない、結衣と二人きりだ)
箱根のこの宿は芸能人もお忍びで訪れると云われる老舗で、それだけに接客も丁寧だが実にさりげなく、客が寛げることを最優先に考えている。たとえば、食事の予約にしても運ぶ前に再確認の電話が入った。客への配慮なのだろう。部屋も和洋折衷の豪華なものであった。
「こんなベッド、初めて」
落ち着いたツインベッドに結衣は寝転がってはしゃいだ。初めて見るあどけない顔である。
(結衣……)
特別な場所での新鮮な刺激が狂おしいほどに充満していた。
これまで何度も彼女を抱きながら、どこかに『遠慮』があった。生身で結合しながらも相手は人妻。それに露骨な行為をして嫌われたら……。そんな懸念が常に気持ちの隅にあった。だが、もう結衣は、
(俺のものだ……俺の女だ……)
彼女との間には絆さえ感じていた。何をしても嫌がりはしないだろう。
昨夜、結衣の元を訪れて黙って封筒を手渡した。二百万が入っていた。
「これって……」
目を丸くして驚く結衣に頷きながら、
「いいから、何も言わないで。お父さんの治療に。お金は余裕があったほうがいい」
「小山内さん……こんなに……」
「明日、楽しみにしているよ」
度量の広さを見せるように玄関で別れた。
その効果は確実にあったと思う。いつも以上に結衣は甘えてきた。
「昨日はありがとう。……愛してる……」
濡れた唇は小山内を求めて開いていく。
金の繋がりではないと思った。結衣は心を開き、想いを寄せ、身を任せているのだと思った。
「結衣、好きだ。君のすべてが好きだ」
「ああ、小山内さん、あたしもよ……」
快感に波打つ女体に唇を這わせつつ、下腹部へと移っていく。肌の匂いが胸いっぱいに流れ込み、息苦しいほどだ。
脚を開くと身をよじって隠そうとする。これまでまじまじと秘部を見たことはない。
「よく見せてくれ」
「恥ずかしい……」
言いながらも強い抵抗はない。
太ももは亜希子と比べるとかなり細い。まるで中学生のようだが、それでも付け根に覗いた妖しい女貝はそこだけ大人の様相で濡れた秘肉を見せていた。
暗紫色の陰唇は蜜液に塗れ、肉茎を呼んでいる。
小山内は秘唇に口を埋め込んだ。
「ひい!」
伸び上がる体。舌が秘核を捉えるとのけ反った。
「感じる、感じちゃう!」
その激しい反応に小山内も昂奮した。やはり結衣も自宅では抑えていたのだろうか。貫く快感を言葉で表し、股間を押しつけてきた。
「もっと、舐めて、吸って、気持ちいい!」
「結衣、すごいよ。すてきだよ」
「ああん、とろけちゃう、おまんこ、とろけちゃう」
思いもかけない言葉に驚いた。
(こんなことを言うとは……)
彼女のイメージからは想像も出来なかったが、それは彼にとって新しい昂奮となった。
(結衣、乱れろ。俺の愛撫に乱れるんだ!)
彼の思い通り、結衣は妖艶に乱れた。
「もう、だめ」
股間を突き上げた後、ばね仕掛けのように起き上がると小山内を押し倒して跨った。
「入れちゃう、入れちゃう」
あっという間に自ら差し込むと、わっさわっさと跳ねた。
「ああ!あたし……ああ!ああ!」
膣が締まった。小山内は呻いた。
「うう!イキそうだ……」
その直後、結衣は膝立ちになって結合を解くと、
「飲ませて」
蜜に濡れたペニスを口に含んで扱き立てた。
「くうう!」
凄まじいほどの吸い立てと扱きに小山内は耐え切れず噴き出した。
「うぐ、うぐ……」
結衣の喉が鳴る。
(ああ……結衣が、飲んでる……)
自分の精液を、まるで命の糧のように飲んでいる。亜希子だって飲んだことはない。感動であった。
萎えかけたペニスを絞り上げ、尿道に残るわずかな滴でも惜しむように結衣は咥えて吸った。
「結衣……」
舌舐めずりしながらかすかに笑みを浮かべた結衣の表情は恍惚としていた。
「ふふ……飲んじゃった……」
半開きの口から赤い舌が覗いた。
(どうなってもいい……)
結衣を抱きながらそう思ったのは本当である。
(この女とこれからの人生を生きていけたら……)
きっと満ち足りた生活を送れるにちがいない。結衣だって、不能で暴力をふるう夫と暮らしていても何の夢もないだろう。彼女がその気になるなら本気で考えてもいい。
貯えがあるから慰謝料ですむなら何とかなる。足りなければ借金をしてもかまわない。
ただ、不倫をしているのは自分のほうだ。金ですんなり解決できるとは思えない。田之倉だけでなく、妻亜希子の問題もある。二人が納得しなければならない。
(簡単にはいかないな……)
結衣の気持ちも知りたい。
(折を見て話してみよう……)
歓喜に震えるか細い結衣を抱きしめながら想いは巡った。