女刑事 上原若菜-5
俊介ともっと一緒に居たかったが、中央署のみんなには仕事がある。積もる話がしたい仲間もいっぱいいる。しかし若菜には一人で行きたかった場所がある。みんなとは夜に家で会う約束をして若菜は一人である場所へと向かった。
「お母さん…、ようやく罪を償い終わりました…。」
母、麗子の墓前だ。掃除しなくても綺麗で新しい花が添えられていた。誰かが手入れをしてくれたのだろう。感謝した。
墓前に跪き、手を合わせて目を閉じる。様々な事が頭に浮かぶ。しかしやはり母の死に目に会えなかった後悔が強い。何度も何度も謝った。そして数え切れないぐらいのありがとうを伝えた。いつも自分を進むべき道に導いてくれた麗子。そんな麗子に若菜は頼った。
「やっぱり私はもう刑事は出来ない…。先輩を亡くしたあの時とは違う。決して逃げるんじゃないの。私は世間に守られたおかげでもっともっと課せられるべき罪が許されたようなもの。私はヒーローなんかじゃない。人殺しなの。憎しみで人を殺した人間は二度と銃なんて握ってはいけない。だから私はもう…。」
心中で母と会話する若菜。
「そりゃあ…、うん。また刑事がしたいよ。今度はお父さんや先輩が描いたような理想の刑事になりたい。私は刑事という仕事が好き。だけどね…。」
言葉に詰まってしまう。その時、背後から声が聞こえた。
「戻りなさい、刑事に。」
女性の声だ。振り向く若菜。
「あ、あなたは…!」
若菜の瞳に映った女性、それは皆川泰子。静香の母だ。以前見た時よりも顔が和やかになり優しい雰囲気に包まれていた。
「あなたが今日出所するって聞いてね。」
「ご無沙汰してます。」
頭を下げる若菜。
「あの時のまるでゾンビみたいだった子がこんなに立派になって…。上原さん、娘の仇をとってくれてありがとう。不謹慎かもしれないけど、嬉しかったわ。それにあなただけに大きなものを背負わせてしまってごめんなさいね。本当に感謝してる。」
「いえ、そんな…。」
自分の娘が目の前に居る女の身代わりとなり命を落としたというのに、逆に頭を下げてくれる。やはり母は偉大なんだと痛感した。泰子は線香をあげ合掌してから若菜に言った。
「世の中があなたの復帰を望んでるわ。」
「えっ?」
「みんなの努力よ?あなたに関わる全ての人があなたが刑事に復帰できるように動いてくれたのよ!ある人は署名して、ある人は街頭で演説して、マンモスダディさんはテレビで、署長さん達は警視庁本部に何度も足を運び警視庁総監を引きずり出して、ね。私もその運動に参加した。だからみんなの努力を知ってるの。」
「わ、私の為に…?」
「ええ。そして警視庁総監もその運動に賛同した。いえ、皇室もよ?天皇陛下もあなたの復帰を望んでいるのよ?」
「ま、まさか…」
話が大きすぎてついていけない。
「湯島武史や田口徹にズタズタにされてしまった警察の権威。そんな湯島武史や田口徹にたった一人で挑み、そして打ち勝ったあなたは警察復権の象徴なの。あなたが望む女性署員や婦警の復権も含めて、あなたにはもう大きな責任が用意されてるのよ?今までよりも重くて大きい物を背負わなきゃならないけど、嬉しい悲鳴なんじゃないかな?あなたにとって。もしあなたが静香だったなら、私は娘に向かってこう言うわ?刑事を辞めるな!って。」
心に染みた言葉だった。まるで麗子に諭されているように感じた。今まで自分の事しか考えていなかったが、迷惑をかけてしまった警察への責任を果たさなければいけない使命が心の中で芽生えた。若菜は決めた。もう迷わない。
「私、刑事に復帰します。」
そう言って立ち上がり雲一つない青空を見上げたのであった。