無謀3-5
朝からビールの臭いをかぐだけで酔いそうだったが、せっかく自分のために――半分以上は口実としても――席を設けてくれたので行かないわけにはいかない。
連チャンとなると必ず妻に叱られる。でも、ちょっと叱られたい気分だった。今日は、早めに宴会をあとにした。二日逢わないだけで、もう女房が恋しくなり声が聞きたいから、などと本当のことは口が裂けても言えない。
我慢しきれずに歩きながら電話した。十回、十一回……二十、二十一……ずいぶん長いな、と思ったときささやくような妻の声が聞こえた。
『出るのが遅くなってすみません』
「いや、いいんだよ。今日もね、飲み会に誘われちゃった。もう、参っちゃうよ。もちろん早く切り上げたけどね」
『お疲れさま』
お酒の件で文句を言いわれるだろうと思っていたので拍子抜けした。「そっちはどう?」
『別に……問題はありません。だ、大丈夫ですッ……普段、どおり……ッ……』
「ずいぶん声がかすれているね。なんだか苦しそうだし」
別れ際に空港で泣いたからだろうか。後ろめたさが込みあげた。
『帰りは明日の午後ですね』突然話題を変え、妻は少し早口で言った。
「そうだけど」
『会社に寄ってから……ですね』「そのつもりだけど」
不意に雑音が消えた。「あれ?……」呼びかけようとしたとき声が聞こえた。『……ごめんなさい。わたしの方は……ヒッ……』悲鳴? 咳? 続いて荒い息づかい。
「体調悪そうだね。カゼでもひいたのかな。誰かいるの?」
思わず口に出てしまった。腕時計を見ると午後八時過ぎ。思った以上に早く切り上げてきた。こんな時間に誰もいるはずもない。「まさかね」と笑う。
『いいえ、誰もいません』
やはり早口で答えたあと、ピチャッという音が聞こえた。電話口を手で覆ったような具合で声が途絶えた。
「もしもし……切れちゃったのかな」
受話器を離しているのだろう、コホコホと妻の咳が小さく聞こえた。
『ご、ごめんなさいッ……ちょっと噎せただけ……んッ、んッ……』
口を塞いだのだろうか。ちょっと心配になってきた。
『カゼをひいたみたい』
「そうだと思うよ。今日は早く寝てゆっくり休むといい。じゃ、もう切るから。お休み」
『ごめんなさい……おやすみなさい』
ケータイを耳に当てていると、遠くの方で『あぁん』と艶めかしい声がしたのでぎょっとする。痰でも絡んだのだろうか。
妻には言わなかったが、思ったより仕事が早く終わりそうなので、すでに速い時間の飛行機のチケットを買ってある。会社へ行く前に自宅へ寄って妻を驚かせようと思っていたが、体調の悪そうな今の電話でそんな気分も霧消した。とにかく心配なので先に家に行こう。胸の中にもやもやしたものが広がっていく。
*
腰に絡みついた両脚を邪険に解き、奈津子を横に押しやった。ごろりと横になり大の字になると、胯間にペニスがそそり立つ。膣から抜いたばかりなのでテカテカに光っている。ぬるついたペニスをヒクつかせ、「口で」と指示した。「口だけだ」と言い直す。奈津子は広げた胯間の間に跪き、向こう側に尻をついと持ち上げ、先端に唇を押し当てた。
後頭部をつかみ、口中深く飲み込ませることを強要した。手を使おうとしたが、慌てて引っ込める。苦しげな表情に満足する。そう、指示に従えばいい。
あのあと泣きじゃくる奈津子を抱きかかえ、浴室に連れて行った。湯がたまるまで、もっとも恥ずかしい部分を丹念に洗った。洗うと言うより目的は愛撫だ。浴槽の縁に手を突かせ、その部分に宛がった。不可能なのは分かっている。いつもの納めるべき肉穴を使い、背後から腰をぶつけた。陶酔する奈津子を抱きかかえ、温めにした浴槽に浸かった。直ちにそこをひとつにすると、しがみついてきた。長時間セックスをするため湯はいつもぬるめにする。今日もそうしたのでここで抱かれることは奈津子も分かっている。
腰を揺らし不浄の穴を探ると、声をあげた。ここへ来て初めて余裕のあるセックスができた。浅く入れてある田倉の指先を強く締め付け、腰の動きを同調させながら、キスを求める奈津子が愛おしい。
その日、ベッドの上では泣いて嫌がった。ロープのようなものがなかったので、自分の下着を破り大股開きにして縛った。初めてだったが、淫らな体位で縛りあげることができた。可能な限り責め立てた。