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透明な滴の物語V
【同性愛♀ 官能小説】

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ワインのあとで-3

「あまえんぼさんね。聡美ちゃんは」
「ねぇ、佐和子さん。今夜だけでいいの。私のお母さんになって。お願い。いいでしょ?」
佐和子は聡美の願いを聞き入れた。
「いいわよ」
今夜、佐和子は一夜かぎりの聡美の母親になった。

この状況だから訊けることがあった。
「聡美は、お母さん、もういないのよね?たしか聡美が大学生の時にお亡くなりになったとか…」

長い付き合いだったが、佐和子はそのことについて今まで詳しく聞いたことがなかった。
「そうなの。私が大学生の時だったわ。…でもね。私、最期は会えなかったの。お母さんに」
聡美の言葉が詰まった。
佐和子は、今夜聞かなければ、このことについて知るチャンスはもうないだろうと思った。
「もしよかったら、私にお話ししてくれる?」
聡美はうなずいた。

「私の実家は田舎にあるんだけど、大学に合格して田舎を出て、一人暮らしを始めたの。
大学生の時は、実家は遠いから、たまにしか帰れなかったわ。
新幹線を使うからお金もかかったし。
お母さんは、もともとあまり丈夫な身体じゃなかったの。
でも、あんなに急に亡くなるとは思ってもいなかった…」

寒い冬のことだった。
入院していた聡美の母親の容態が急変したとの知らせを受け取ったのは、夜中のことだった。
朝1番の新幹線で実家へ帰ることになった。
嫌な胸騒ぎがして一睡もできなかった。
新幹線の駅まで出るために電車を乗り継がなければならない。
まだ暗い早朝、聡美は最寄りの駅まで出向いた。

「佐和子さん。朝早くの電車って、なかなか来ないのよ。分かる?」
始発電車を待つホーム上に人はまばらだった。
ホームのベンチには昨夜の酒が残っている者もいた。
その男は汚いジャンパーに包まるようにして、じっと目を閉じ寒さに耐えていた。
聡美は、朝まで呑んでいたような人を見て苦々しく思った。



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