小さな町の夜-1
第3話 小さな町の夜
千帆が運び込まれた麓の診療所は、夜になると通りに人も見かけないような小さな町にあった。
この町にある唯一の医療機関である。
一応コンクリート造りの建物ではあるがとても古い。
本当は建て替えるべきだったが、予算不足のため、仕方なくこのまま使い続けていた。
老いた医師と看護師の奥さんの二人きりで運営していた。
予め連絡を受けていた医師と看護師は、腹痛を訴える千帆を最初から診察ベッドに寝かせた。
「ちょっと、おなか診るよ」
老齢の医師がそう言うと、これまた高齢の看護師は手慣れた様子で千帆のジャージのズボンを下ろした。
医師が付き添ってきたコーチに声をかける。
「ああ、先生ね。ご覧のとおり、この医院は人手不足でね。先生にもいろいろ手伝ってもらうからね」
町でただ一人の医師であるこの男は、常に住民から崇められている存在だった。
ぞんざいな物言いや態度は、そんな環境で自然に身についてしまったものだった。
「分かりました。私は先生じゃなくてテニスのコーチなのですが…」
コーチは納得できない表情で従った。
千帆にとってはコーチが立ち会うのは恥ずかしかったが、仕方なく思った。
白いショーツの下腹部は硬く張っていた。
医師が指で押しながら診察した。
「こりゃあ、苦しいだろうね」
コーチに振りむき説明する。
「先生、ここね。びっしり便が詰まっている」
千帆は思わず顔を覆う。
「いやぁ!」
その声を聞いてコーチは複雑そうに苦笑いを浮かべた。
問診が行われ、千帆は今までの状況や体調の推移などについて話した。
そして診断と処置が決まった。
「お嬢さんね。腹が痛いのは便秘のせい。浣腸を一発お見舞いすれば治るよ。お嬢さんの歳ごろには良くあることなんだけどね」