亮子という女。-6
涼子の取り調べを続けた。今度は若菜が取り調べを担当した。
「田口の風貌はどんな感じだった？」
「テレビのニュースで使われてた写真そのままでした。変装と言っても帽子を被るぐらいで特に…。」
「田口らしいわね。ムカつくぐらいに堂々としてるわね。いなぎ市でどの位稼いだの？」
「私が知る限りでは1億円に届きそうなぐらいです。」
「そのお金は？」
「金庫に保管してました。その都度田口さんが持って行ったので大金が溜まる事はありませんでした。」
「銀行に預けてる様子は？」
「分かりません。私は帳簿をつけていただけなんで。」
「そう。でも足がつく事を考えたら銀行は使わないわね。外資系か裏銀行あたりは怪しいけど。」
「田口さんはあまりお金には固執してないと思います。お金よりも麻薬で変わっていく人間を見たりしてる方が楽しそうだったから。でも一番好きそうだったのはレイプでした。怖かった。絶対レイプなんてされたくないって思いました。ホント、手当たり次第なんです。街で可愛い子を見つけると隙を見てあっと言う間に攫って犯すんです。それがどこかの店員でも銀行の窓口でもそう。目をつけた女は必ず攫って犯してました。どうしてあそこまで鬼になれるのか分かりませんでした。でも私は芸能界に入りたかったから口出しも抵抗もしませんでしたが…。」
若干怯えながら話していた。
「結局根本的に田口はレイプ犯って事か。麻薬と言い人の人生をメチャクチャにするのが好きなだけね。そんな人間が人の夢を叶えようとしたりすると思う？芸能界に入れてやろうだなんて思ってもなかったんじゃないの？」
亮子は唇を噛み締める。
「分かってたんです。利用されてるだけなんじゃないかって。それに自分の夢をこんな事までして叶えて私は嬉しいのかって。だから最近感じていました。ホームレスで残飯漁ろうが、地面を這いつくばっても自分の足で夢を叶える努力をしたほうが、例え夢が叶わなくてもスッキリするんじゃないかって。」
そんな亮子に若菜は言った。
「思ったより見込みあるよ、あなたは。この逮捕を人生やり直すきっかけに出来る人間と出来ない人間がいる。でもあなたはそれが出来る人間みたいね。その気持ち忘れちゃダメよ？亮子。」
「は、はい…。」
亮子と呼んで貰った事が物凄く嬉しく感じた。
「でも罪は罪よ？たとえ自分で薬物使用してなくても海外では所持してただけでも普通に無期懲役食らうんだからね？死刑だってあり得る。それだけ他人の人生を狂わせてしまう責任は大きいの。薬物使用してしまった人達がどんなに苦しい人生を歩まなきゃならないかを良く考えておきなさい。自分の夢を叶えるのはその後ね。分かった？」
「はい。ごめんなさい…。」
そう謝った後、真剣な顔で若菜を見つめながら言った。
「あの…私みたいな犯罪者がまだ夢を追いかける事が出来るのかな…。」
そんな亮子に若菜は言った。
「夢がまだ見えるなら諦める必要ないでしょ？夢が見えなくなったら諦めなさい。」
その言葉を聞いた瞬間、亮子の目から涙が溢れ出した。そんな亮子の頭を撫で、そして取調室を出て行った。
(純粋な子じゃない…。あんな子の人生を狂わせた田口…絶対に許さないわよ…。)
その表情は怒りに満ちていた。