セックス-3
涙と共に今までの苦しみが少しずつ流れ落ちた俊介は次第に落ち着きを見せ始めた。ようやくまともに言葉を口にできるようになる。
「もう逃げないよ、俺。静香だって苦しみから立ち直りあんな立派になったんだ。若菜ちゃんもそうだ。このままじゃ情けない。それに…俺にはタマキンがついてるからね。」
「フフっ、はい…。」
俊介の目を見て安心した若菜。若菜自らもスッキリした笑顔を見せた。
「俊介さん、あれは事件が終わったら渡すつもりだった婚約指輪ですか?」
若菜は棚に置いてある静香の写真の前に置いてあった指輪を見つめる。
「ああ、そうだよ。」
俊介はその指輪を見て毎日泣いていた。それが自分の静香への愛情の大きさだと思っていたが、ようやくそれが勇気を出し前へ進む為の障害になっている事に気付いた。
「もう静香はいないんだ。いくらあの指輪を大事にしていても、もう静香の薬指にはめてあげる事は出来ないんだ。俺は静香も指輪ももう胸にしまう。指輪は静香の好きだった海に投げようと思ってるんだ…。」
晴れた顔を見せてそう言った俊介。すると若菜はスッと立ち上がり棚にあった指輪を手にした。
「俊介さん、この指輪、私にくれませんか…?」
「えっ…?」
意外な言葉に耳を疑った。
「私には恋人がいません。俊介さんが先輩をずっと想っていたように私を想ってくれる人がいないんです。恋人に想ってもらえる気持ちが分からないんです。その人の為に絶対に死ねない…、そういう気持ちを私は持つことができません。だから俊介さんの愛が詰まったこの指輪が欲しいんです。先輩への想いがたくさん詰まったこの指輪…、私にとって御守りになるって思うんです。だから…下さい。」
突然の言葉に驚いたが、海に投げるなら静香の愛した若菜に渡したほうが静香も喜ぶかもしれないと思った俊介。
「ああ、いいよ。その方が静香も喜ぶだろう。」
若菜は何とも言えないような幸せそうな顔をした。
「ありがとうございます。お金が無くなっても売りませんから安心して下さいね?」
「フフ、売ったら呪うぞ。」
「怖〜い!」
指にはめて嬉しそうに指輪を見つめる若菜を見て、もし静香に指輪を渡せたならあんな感じで喜んでくれたのかなと思った瞬間、本当に自分の体を縛り付けていた呪縛から解放されたような気がした。
(静香、ごめんな?俺はお前を今でも愛してる。お前の為に戦う若菜ちゃんを今度こそ絶対守ってみせるからな。)
俊介はようやく吹っ切れた。