明かされる秘め事-1
放課後、真雪は友人のユウナに廊下から呼び掛けられた。
「真雪」
真雪は座っていた椅子を逆さにして机に乗せながら顔を上げた。「あ、ユウナ」
「今日、一緒に帰ろうよ」
「ごめん。あたし、掃除当番」真雪は小さくため息をついた。
「そっか。そうだったね。お疲れ。どこの掃除?」
「うん、芸術棟のゴミ出し」
「大変だね」
「しかたないよ。当番なんだから」
ユウナは悪戯っぽく口角を上げて言った。「ゴミの中に、お宝が入ってるかもよ」
真雪は呆れ顔をした。「ないない」
「じゃ、がんばって」
「ごめんね、わざわざ声掛けてくれたのに」
「ううん。大丈夫。じゃあね」
ユウナは小さく手を振って廊下を歩き去った。
放課後、健太郎は修平と一緒に芸術棟の二階に向かう階段を上っていた。掃除当番で残っている生徒が、やる気なさげに踊り場をほうきで掃いていた。
健太郎の後ろをついて階段を上っていた修平が戸惑ったように言った。
「どこ行くんだ? ケンタ」
長い廊下にも数人の掃除をしている生徒がいた。
健太郎は無言で二階の奥にある音楽室を目指して歩いた。
「音楽室に何か用なのか?」
「ちょっと気になって……」
健太郎は音楽室のドアを静かに開けた。カーテンは閉められたままだ。
「ここ、掃除してないな。誰もいない……」
「京介たちじゃなかったっけな。ここの掃除当番。あいつらいっつもさぼりやがるかんな」
「確かに」健太郎は苦笑いをした。「部活が命のやつらだからな」
二人は室内に足を踏み入れた。
「暖かいな……。まるでたった今まで暖房が入ってたみてえだ」
健太郎は教室の机の間をゆっくりと、怪訝な顔つきで歩いた。
「さっきの授業の時、カーテンは閉まってたのに、エアコンの室外機は回ってた。でも今は切られてる」
「誰かいたのかね……」修平が呟いた。「あれ?」
教室の中央あたりの、なぜか机が乱れて並べられた所に佇んでいた健太郎は振り向いた。「どうした? 修平」
「ピアノのカバーが濡れてっぞ」
「濡れてる?」健太郎もピアノに近寄った。
修平の言った通り、そのカバーの真ん中辺りが濡れている。その染みの縁は乾きかけて、少し白くなっていた。
「雨漏りなわけねえよな。今日は晴れてっから……」修平が天井を見上げた。
「修平!」健太郎が大声を出した。
「なんだ、ケンタ」
「これ」健太郎は染みの近くについていたものを指さした。
「これは!」修平も大声を出した。「ヘ、ヘアじゃねえか!」
「教室の床にもあった……」健太郎は自分がさっきまでいた場所に目を向けた。
「ってこた、誰かがここでエッチ……」修平は驚愕の表情で健太郎を見た。「ピ、ピアノの上でやったんかな」
「違うよ。教室のあのあたりにこのカバーを広げてたんだろ」健太郎は親指を立てて、修平を見たままその場所を示した。
「場所からして、ワシオっちが一番怪しいな……」
「そうだな」
「音楽室がオフィスラブの現場になってたなんてなー。やるなーワシオっち。相手は誰なんだろうな?」
「……」健太郎は眉間に深い皺を寄せて、表情を硬くした。
「だけどよ、昼間っから大胆だよな。生徒が帰っちまった後だろ、普通、やるの」
「……相手が生徒だとしたら……」
「えっ?!」修平は思わず健太郎の顔を見た。「生徒?」