売春区域-8
膣楽園で働いていた女性と客で来ていた男性の薬物検査が行われた。結果は全員から薬物反応が出た。女性は全員、客の男性は出た男と出なかった男に分かれた。薬物反応が出なかったのは今日が初めての利用だという男性２人だ。他は最低３回は利用していると言う事で女性に進められ自分の意志で使用したとの事だ。1度目の来店でドラッグセックスに魅せられてしまい、再び同じ快楽を求めて軽い気持ちで使用してしまったという証言が殆どだった。
国からの補償金の出ない地域に住む女性は働き口に困っていた。金を稼ぐ為に売春をしていた女性ならまだしも、補助金を貰っている状況で働いている女性もいた。その中の1人、瀧口優奈に話を聞いた若菜。
「どうして薬物なんかに？」
「あの人の命令だったから…」
「あの人？田口ね？」
「名前は分からないけど、Tって呼ばれてました。みんな証言したかどうかは分からないけど、ここで働いてる女の子たちは…」
見抜いていたかのように若菜が言う。
「田口にレイプされて写真や動画を撮られたんでしょ？それで無理矢理売春させられたのと違う？」
優奈は驚いた顔をして答える。
「はい。」
「奴の手口なんてそんなものよ。可哀相に…。それで言われるがまま薬物を客に勧めたのね。」
「はい。」
うなだれながら答えた。
「補償金という大金を握った人達の態度が横暴になった。そんな補償金成金の態度にムカついている人間に薬物を使用させてその怒りを増長させて襲撃するような闘争心を掻き立てていたんじゃないの？田口は。」
自分の考えていた事を確かめる意味も込めて言った。しかし返ってきたのは予想外の言葉だった。
「いえ、むしろ逆だと思います。」
「えっ？逆って…？」
「私たちは始め、補償金を貰って懐が温まった男性達を誘惑し薬物を使用させるようにと指示されました。」
「えっ？」
「わざと近付いて、お金持ちに媚び寄るよう命令されました。それでお金を貰って抱かれろって。金持ちである事に喜びを与えろ、お金さえあれば何でも思い通りになる、お金で何でも解決しようとする男をたくさん作れって。だから私達、街に出て補償金貰ってる男性に数え切れないほどに売春を繰り返しました。たくさんコカインを吸わせました。コカイン吸ってセックスする快感を覚えた人達のリストを作り、Tはそのリストを元に直接薬物を売りさばいてました。もともと補償金貰ってる人はお金をたくさん持ってる事なんてそんなに鼻にかけていなかった。Tに指示されて私達が売春をするようになった頃から街の人が段々横暴になり治安が悪くなっていったように思います。」
「な、なんて事…。私はお金が人の心を蝕んでしまったと思ってた…。」
「いえ、お金ではありません。薬物がこの街を狂わせてしまったんです。私達もそれに加担してしまった…。どうしよう…。私は…私は…」
泣き出す優奈を介抱する若菜。
(田口はこの街を崩壊するつもりだったのね…。建物はじき復旧する。街並みも戻る。でも一度壊れた人間関係は元には戻らない。金を吸い取り飽き足らポイっと捨てて消える。きっと田口は崩壊ゲームとしか思ってない。そして面白そうなゲームを見つけたから次のゲームに乗り換えた…。新しい獲物を見つけたから加藤綾美を捨てて行った。人々が争う街の様子を楽しんでいたんでしょうね…。恐らく何の意図もない。お金の集まる場所を見つけて吸い尽くした後は醜い争いを繰り返す人間を見て楽しんでいただけ…。加藤綾美を捨てて行ったのは警察への挑発か…。)
若菜は怒りがこみ上げてきた。同時に街一つを思いのまま崩壊に導ける田口に改めて脅威を感じた若菜だった。