道-2
若菜は道中の記憶が全くなかった。頭の中は父、正芳と静香がやり残した事ばかりを考えていた。その全てを自分が引き継ぐ責任感を自分に与えるようにそれを頭の中に浮かべていた。目だけをギラギラさせたゾンビが足早に街を突進するかのように足早に通り抜けて行く。
家に着くとすぐに仏壇の前に正座する若菜。正芳の写真は勿論、静香の写真も飾られていた。若菜はグッと目を見開く。
「お父さん、先輩…、私は2人の志を受け継ぎ、少しでも2人に近付けるよう頑張ります。人のために役立つ刑事に、そして弱き人達の為に命をかけられるような、そんな2人みたいな立派な刑事になる事を誓います。」
これまでとは違う力強い声だ。リビングにいた泰子の耳にも届いた。
「先輩は私を本当の妹のように思っていたと言ってくれた。先輩…、私も先輩の妹になりたかった…。偉大過ぎてお姉ちゃんって思えなかったかも知れないけど、でも妹として先輩の結婚式に出たかったな…。先輩のような立派な刑事になれた時、先輩をお姉ちゃんって呼べるかな…。私はLADY GUNを引き継ぎます。」
そう言って黙祷した。そんな愛娘を温かい笑みで見つめていた麗子。若菜は麗子の気配を感じて黙祷し合掌しながら口には出さずに誓った言葉があった。
(私は田口徹を絶対に許さない…。)
これは長きに渡る田口徹との決着の日までずっと持ち続けた若菜の信念であった。その憎しみにまみれた燃え盛る信念は決して消える事はなかった。
「若菜、刑事続けるの?」
麗子が若菜に歩み寄り隣に並んで正座した。
「うん。」
そう答えるとニコッと笑い仏壇に手を合わせた。
「お父さん、静香ちゃん…若菜を守ってあげて下さいね。」
若菜も一緒に手を合わせた。
「心配させてごめんね…?もう大丈夫。」
目を閉じ合掌しながらい言った若菜。
「心配なんかしてないわよ。逆に危ない刑事を辞めてくれると思って安心してたのになぁ。フフフ、これからが心配かけられるのよね。」
「ごめん…」
麗子は若菜の肩を抱き寄せ頭を撫でる。
「私は子供の意志を無理矢理否定するような親ではないわよ?若菜が心から刑事を続けたいって決めたなら私は応援するだけよ。そのかわり中途半端な事し始めたらすぐ辞めさせるからね?分かった?」
「うん。」
もう涙は枯れたようだ。涙が溢れてもおかしくないのに涙が出ない。若菜は麗子に言った。
「私、親不孝だけはしない。お母さんより早く死なない。絶対…。」
「ん?うん。」
意外な言葉に驚いたが、若菜がしっかりと死と向き合っている様子に少し安心した。
夜、若菜は久し振りに熟睡出来た。目が覚めて、正芳と静香が夢に出てきたような気がしたが覚えていなかった。シャワーを浴び白髪たらけの髪を溶かしメイクはせずに服を着て家を出る若菜。
「行ってきます。」
「気をつけてね〜。」
いつもと変わらぬ麗子の姿が安心する。若菜の新たな人生が始まる。長く苦しい第ニの人生の始まりの朝だ。たくさんの物を背中に背負い、若菜は朝日に向かって歩き出した。