終わらない物語-21
田口は若菜の目をジッと見る。
「おまえ、嫌な目をしてるな。正義感の固まりだ。反道徳的な行為を繰り返す俺に強い憎しみを抱いている目だ…。いや、愛する先輩に酷い事をした事への怒りか?どっちにしても俺にとっては虫ずが走る目だ。おまえはややこしい存在になりそうだ。今のうちに消えてもらう。」
田口の表情が豹変する。笑みが消え鋭い視線を若菜に浴びせる。
「…」
若菜は身をもって蛇に睨まれた蛙という意味を知った。まるで体が動かなくなってしまう。
「ったく女刑事ってのはウゼー存在だ…。死ね。」
田口は躊躇いなく若菜に銃を構える。して引き金にかかる指を引いた。
「パン!!」
銃声が鳴り響く。
(終わった…)
若菜は死の恐怖に目を閉じた。父親を亡くしてからの辛い日々、そして同じ警官の道を選び静香と毎日過ごしてきた日々が走馬灯のように頭を駆け巡った。胸付近が温かい。きっと血の温もりだろう。目を開けるのが怖い。血だらけの自分を見るのが怖かった。
(死ぬ瞬間て痛みも感じないんだ…。)
そう観念した若菜。しかしどこか現実的であり、現実的でない違和感を覚えた。若菜はゆっくりと目を開ける。
「えっ…?」
若菜の目の前に静香の顔があった。若菜に抱きつくようなかっこうで静香がそこにいた。
「せ、先輩…??」
静香は重そうに瞼を開けた。
「ありがとう…助けに来てくれて…」
虚ろな表情で必死に笑顔を作る。
「せ、先輩…?」
状況が把握出来ない。頭の中が整理出来なかった。
「うっ…」
静香が痛そうな表情をする。静香の背中を触った若菜の手にヌルッとした温もりを感じた。ふと手を見ると真っ赤に染まっていた。
「先輩!!先輩!!」
ようやく状況が理解できた若菜の心臓が激しく鼓動する。
「良かった…無事で…。」
痛々しい笑みが若菜の胸に突き刺ささる。
「どうして…」
若菜の言葉に田口が口を挟む。
「あの時と逆の立場だなぁ、皆川静香!美しい愛情だ!反吐が出るぜ!」
そう言いながら二発めの銃弾を発砲しようとした瞬間だった。
「おまえら大人しくしろ!!動くんじゃない!!」
一気に大勢の警察がなだれ込んできた。騒然とする倉庫内。抵抗し逃げ回る覆面男達を制圧にかかる。物々しい雰囲気の中、静香と若菜の時間がゆっくりと流れる。