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白い波青い海
【その他 官能小説】

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白い波青い海-9

(5)


「これじゃお好きな散歩もできませんね」
どしゃぶりの雨である。風も強く暴風雨である。
「台風じゃないんでしょう?」
「ええ、今日中には止むようですよ。ひさしぶりの雨ですね。そろそろ梅雨入りかな」
昨日から来ている釣り客がロビーに来て、窓から外を眺めて舌打ちをした。そして仲間と将棋を指し始めた。
「参ったな」と一人が言った。将棋の局面ではない。
「予報じゃ、あと一日もつと思ったけどな。無理に有給とったのに」
「天気だけはしょうがないよ」

 早朝に目覚めたものの、容赦ない雨と風の音に外出は断念せざるを得なかった。私は少し離れたところから二人の対局を見るともなく見ていた。

 頭が重い。頭痛ではない。覚めやらぬ夢の残像がねっとりとこびり付いるかのような鈍い感覚が私の思考を被っていた。
(夢ではない……)
が、現実感がぼやけている。
(ああ……)
 息を吸うとはっきり女の匂いが鼻腔に沁み付いてついているのがわかる。気のせいかもしれない。いや、たしかに肌の匂い、そして淫靡な秘臭が残っている。

 昨夜、夕食後に宿に電話があった。
「飲みたくなっちゃった。出てこられる?」
隣町にいるという。吐息を含んだような声が受話器から洩れてきた。
 タクシーを呼んでもらい、はやる気持ちを抑えた。
「帰りは遅くなるかもしれません」
「ええ、ええ。鍵は開けておきますから」
主人は心得ているという顔で、傘を差しだした。低気圧が近づいて雨は本降りとなっていた。相手が誰かはわかるはずはないが、電話を取り次いだので外出の目的が女性であることは承知なのだ。
「たまには気晴らしもいいですよ」
意を含んだような主人の言葉が背中に聞こえた。

 天候のせいもあるのか、駅前には人影はまばらであった。佇む女は気だるそうな笑みを見せて私を迎えた。
「ごめんなさいね。急に呼び出したりして」
女はすでに酔っていた。
「この天気で店は早じまい……」
近くのスナックでアルバイトをしていると言う。観光客相手だからこういう日は客足は遠のく。

「飲む所、ないかも……」
「ぼくはあまり酒は強くないんで……」
「そう……それじゃ……」
女はちょっと俯いてから私の腕を取った。
「いこ……」
どこへとは訊かなかった。その足取りは行き先を決めている歩き方に思えた。私の傘に寄り添い、女の息から酒の香りが甘く漂ってきた。

 温泉町でありながらラブホテルがあることを初めて知った。
「ふだんはけっこう混むのよ」
女は時計を見て、ベッドに掛けるとスカートを脱いだ。
 女は何も言わない。下着を取り、股間を隠すように身をよじるとTシャツは着たまま背中に手をまわした。ブラジャーのホックを外したようだが抜き取ることはせず、シャツを通して膨らみが揺れた。

「こんなことして、驚いた?」
「いえ……」
「なんだかもやもやしちゃって……わがままきいて……」
ときめきの熱線が何度も全身を走り、私は混乱の中、瞬く間に充血をきたしていた。

「きて……」
誘われるまま下だけ脱いだのは女がその格好だったからである。
「シャワーは……」
「いいの。きて……」
女に重なろうとすると遮られ、のしかかられた。
「好きにさせて」
生温かい口臭とともに唇が合わさった。舌が絡み、嗚咽のようなこもった声が洩れた。
 溢れ出る甘美な唾液は芳醇な酒に似て酔いしれ、意識が薄れていく。
背中に手を回してシャツを脱がせようとすると女は拒んで身を起こした。
 シャツをたくしあげて胸をはだけ、乳房を押しつけてくる。乳首を含んだ。噎せるような肌の匂いがひろがる。
「ああ……感じる……」
のけ反るも乳首は外さず、手をつき、前のめりになって顎を突き出した。

 女の腰がうねるように動く。裂け目を押しつけてくる。私の先端に触れると角度を合わせ、沈みつつ煽った。
「う……」
見事に秘唇が捉えると滑らかに納まった。
「ああ……」
二人で呻いた。
おびただしい液量なのは見なくてもわかる。

 体を起こした女の腰は溶鉱炉と化して私を溶かし始めた。膝を立てて寸前まで抜き、膣壁に擦りつけるように沈む。そして根元から揺すり、捻り、締め上げて声を押し殺す。
 自分の上で波うつ女体。生き物のように収縮を繰り返す女陰。経験の浅い私に太刀打ちできる性戯ではなかった。

「イク……出る……」
「いいのよ、このままイッて」
跳ねるような上下運動になった。
「ああ!イク……」
射精と同時に絞るような締め付けが起こって女は私に重なってきた。

 痙攣とともに噴出した後も女は結合を解かなかった。徐々に芯が抜けていく陰茎を吸い上げるように秘口を狭めていく。まるで手で握るかのように括約筋が動くのがわかる。ぬめりと精液の滴る状況で裂け目を押し付け、萎えていくペニスはうっ血するほどに締められた。
(これは……この女は……)
やがて硬度が蘇る兆しがみえた。そのとたん、
「ああ……ちょうだい!」
女は狂ったように打ちつけてきた。
 むくむくと勃ち、女筒に満ちた。たまらず抱きついて突き上げた。
「ヒイ!」
女の悲鳴は二度、三度、すすり泣くように続いた。

 身支度を整える女を見つめながら、残り火がくすぶっていた。
「泊れない?」
女の体の隅々まで知りたかった。溺れたかった。
「帰らないと……ごめんなさい……」
それはあの老人のためなのだろうか。
「一緒にお風呂に入りたい。それだけでも、だめ?」
「見せられる体じゃないわ。身勝手ですみません……」
「じゃあ、ぼくも一緒に」
「先に帰るわ。そうさせて……」
笑顔ではあったが疲れの陰を感じた。激しい雨と風の音が聴こえていた。
 


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