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白い波青い海
【その他 官能小説】

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白い波青い海-8

 四人が去ってから、女は膝を抱えて座り、海を見続けていた。ついいましがたの剣幕が嘘のように表情がない。

「傷の五郎って人、ずいぶんすごい人みたいですね」
まだ昂奮が覚めやらなかった。
「……でたらめよ、そんなの……」
女は話したくなさそうだった。

「おじいさんの具合、どうですか?」
女の目が少し柔らかくなった気がした。
「だめね……」
「だめ?」
「ええ。もう長いことないみたい……」
「そんなに悪いんですか」
「体だけじゃなくて、もう気力みたいなものがないのね。生きる力が消えちゃってるような……」
「何か、あったんでしょうか……」
女は淋しそうに微笑んだ。
「いろいろとね……」

 老人が座っていた浜の石に目をやった。その石は砂の白さに抵抗して浮き出ようとしているように見えた。
「いつもあの石に座るんですか」
「そう……ここのところ、毎朝……」
「毎朝……」
「夜が明ける前に出て行っちゃうの。気をつけているんだけど、あたしも夜遅いから、つい……」
夜の仕事をしているということなのか。気になったが訊かなかった。

「大変でしょうね。あのお身体で」
「いつも言うんだけど、だめなのね」
「よほど海が好きなんでしょうね」
「じいちゃんね、昔ここで漁師してたらしいの」
「そうですか……」
私は旅館の主人に聞いた話を腹に沈めた。

「漁師じゃなくても、海っていいわよね」
女は気持ちよさそうに伸びをして声をあげた。明るい笑顔を初めて見た。
「旅行、楽しい?」
「ええ、まあ……」
不意に訊かれて言葉に詰まった。
「楽しいっていえば、東京にいるよりはいいかな」
「なんだか楽しくなさそうね」

 それからしばらく、私たちは潮騒と陽光に包まれて過ごした。雲の流れが速かった。
「お酒、飲むの?」
「ええ、少しは」
「もし、時間があったら、飲みに行きましょうか?」
突然ではあったが呟くほどの言葉であった。
「いいですね……」
「陽が強くなったわね。これから梅雨でしょう。夏になったらどうなるのかしらね」
風が激しさを増し、唸りをあげて砂粒を叩きつけてきた。


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