生贄-10
Ｒ４の捜査をしていた中で静香はある人物に違和感を覚えていた。徳山と同じく積極的に捜査に協力してくれた人物…、そう、高田泰明だ。明確な理由はないが、刑事の勘と言うのだろうか。どこか疑いの念を抱いていた。
「ところで、高田道彦には兄弟はいないの？」
「兄弟？あ、ああ…、そう言えば姉ちゃんがいましたね。」
「お姉さん…？」
目つきが変わる静香。
「あ、そうか…！刑事さんの言う３０歳前後の女…、高田さんの姉ちゃんなら当てはまるかも。年齢より若く見えたし美人で色気あったっけ…。」
「見た事あるの！？」
「はい。一度だけですけど。確か瑞穂さんて言ったような…。」
「高田瑞穂…」
自分が追い求めている女はその高田瑞穂に間違いないと確信した。弟を殺害した自分を憎んでいても不思議ではない。泰明だってそうだろう。実の息子を殺害した自分に憎しみを抱かない訳がない。協力的な姿勢を見せていたのは自分を惑わす為だった…、もしくは田口と組んで自分達のシナリオ通りに導く為の情報捜査だったのではないかと考えた。
「高田泰明と田口徹は繋がっていたんだ…！母親と思われたあの女は高田道彦の姉、泰明の娘…。俊介にあんな事をしたのも憎き私へのあてつけだったんだ…。」
加藤綾美の件も含めて全てが線で繋がった。その線がつながると、いよいよ自分への復讐が近い事を感じた。
「ありがとう。ようやくスッキリしたわ…。」
そんな静香に徳山が言う。
「あいつらは普通じゃない。前も言ったけど、気をつけてね、刑事さん。本当ならあなたみたいな人が関わるべき奴らじゃないんだ…。」
静香はニコッと笑った。
「ありがとう。でも彼らを捕まえなきゃ本当の意味で私の人生は動き出さないの。」
そう言って面会を終え車で待つ若菜の元へ戻る。
「高田不動産に行くわよ？」
「はい。」
静香は高田不動産に向かった。
高田不動産に到着し受付に行くと泰明は不在だという事だった。静香は伝言を頼んだ。
「もう来る必要はなくなりましたけど、近い内にお会いできそうですねと伝えて下さい。」
そう言って高田不動産を後にした。
「さすがキレキレ刑事さんだ。」
モニター監視していた泰明がニコッと笑う。
「全てに気づいてももう手遅れだって事には気付いてないっすね、あの目は…。フフフ。」
不屈の闘志を感じさせる目を見てニヤリとした田口。いよいよその時が来る。
(私は負けない。上原さんから貰ったも同然の命…。正義の名にかけて絶対に負けない！)
ドライブ気分で鼻歌を歌いながら助手席に座る若菜を見て、改めて決心した静香だった。
全ての線の先に皆川静香が繋がる時、どんなエンディングが訪れるのかは誰にも分からな…、いや、田口徹にしか分からないのであった。