初疼き-3
健吾に欲情したとはいえ、さすがに高校生をどうこうしようとは考えはしなかった。疼きの発露は夫に向けられ、アルバイトから帰った夜は狂ったように夫を求めた。
ところが先月ははけ口がなかった。夫が北海道の森林調査で二週間も出張だったのだ。仕事だから仕方がないけれど、毎日疼く私が耐えられるはずがない。
日に日に平常心が薄れていった。心というより性欲のマグマが燃えさかって噴火に向かって膨らんでいく感じだった。割れ目が熱をもってズキズキする。搔き毟られる体をどうしよう。……頭に浮かんだのは健吾だった。でも、セックスなんて無理だ。
(抱きしめるだけでもいい……)
それだって問題だけど、私は自分が見えなくなっていた。そして……
(信じられない……健吾くん……)
私は上下に動きながら、ともすれば快楽の淵に落ち込みそうになるのを堪えて奥歯をかみしめていた。健吾にまたがり、一つになっている。
(セックスしている!)
健吾がじっと私を見上げている。その眼差しはまるで私が昇っていくのを観察しているようにさえ見える。十六歳の少年に跨っているのである。しかもセックスは初めてだという。それなのに、私が翻弄されかけている。
(どういうこと?)
経験があったとしてもこの齢で女を知り尽くしているはずはない。夫よりすごい。大きさは細身だけど、とにかく硬い。胎内の奥までズンとくる。愛液はもうぐしょぐしょで、とっくに溢れて、健吾の薄い陰毛まで濡らしていた。
こんなことをするつもりはなかった。欲求が溜まりに溜まってはいたけれど、せいぜい体に触れてみたい。たとえばよろけたふりをして抱きつくとか、そんな程度のことを考えていたにすぎない。あとは家でオナニーを……。
ところがこの日は健吾の様子がいつもと違っていた。勉強のことしか頭にないと思われるほど雑談にもあまり応じないし、笑顔もほとんど見せなかったのに、玄関で微笑んで迎えてくれたのだ。初めて見る柔和な表情だった。
(どうしたのかしら?……)
「今日、母は出かけています。少し遅くなるとのことで、先生によろしくと言っていました」
「そう……」
(そいうことか……)
やはり母親の存在は鬱陶しい年頃なのかもしれない。留守なので伸び伸びしているんだ。小さい頃から勉強勉強って言われ続けてきたんだろう。たまには息抜きもしたいだろう。
(それなら『抱きつき』作戦も出来るかな……)
そんなことを考えてわくわくしていたのだった。だが、健吾の変貌ぶりはそんな生やさしいものではなかった。頭がいいだけに何もかもが直截的で無駄がなく、私はどんどん追い込まれる羽目になってしまった。
机に向って、
「さて、数学からやろうかな」
私の言葉が終わらないうちに、健吾は問題集を机の隅に押しやった。
「どうしたの?健吾くん」
健吾の横顔は穏やかに微笑んでいる。
「先生、時には何もしないことも必要でしょう」
「どういうこと?」
呆気にとられて、すぐに可笑しくなって笑ってしまった。
「そうか。お母さんがお留守だからサボりたくなったんでしょう」
健吾が顔を向け、じっと私を見つめた。そして視線が乳房に注がれた。
「そういうわけではありません。先生とゆっくりできる時間がもてるということです」
「私と?お話でもする?」
健吾は答えず、真顔になって私に向き直った。
「先生は初体験はいつですか?」
「え?……」
とっさに言葉が出ない。
「答えずらいでしょうからそれは言わなくて結構です。ぼくは経験はありません」
「健吾くん……そういう話は、ちょっと……」
「大事なことだと思いますけど、いやですか?」
「だって、健吾くんはまだ高校一年なんだから」
「済ませることは早めにしておいたほうが何事も先へ進めると思うんです」
「済ませるって、何を?」
「セックスです」
私は答えようがなく、顔に火照りを感じていた。
「でもね、それは、大人になってからのことよ。いまは、早すぎるわ」
それしか言いようがない。
健吾は落ち着き払った様子で息をついた。
「解らないことは先延ばしにしない。早く解決したほうがあれこれ妄想や憶測に時間をさかなくて済む。無駄がないでしょう」
「無駄って……」
勉強一筋の子だと思っていたけど、やっぱり思春期、関心があるのだ。
ふと目を落とすと、ジャージの股間が盛り上がっている。
(勃起してる……)
慌てて目を上げると健吾が見据えていた。
「初体験をするなら、相手は先生だと少し前から決めていました。いいですよね」
(健吾くん……)
私の体は強張り、下腹部に熱が生まれた。