密約-12
納得する気持ちと納得できない気持ちを整理してから言った島田。
「どうか頭を上げて下さい。土下座なんて止めて下さい。娘さんはどこの署に勤務なされてたんですか…?」
警視庁総監は顔を上げた。
「娘は警察には身を置いていないんだ。」
その言葉を聞いて静香はハッとした。
「警視庁総監のお名前は、加藤正剛さま…ですよね…?」
「ああ、そうだ。」
静香は瞬きすらせずに言った。
「加藤綾美さん…あなたの娘さんは加藤綾美さんなんですね…?」
「な、何…?」
島田は驚いて警視庁総監を見た。
「ああ。クジテレビのアナウンサーをしている加藤綾美だ。」
「や、やっぱり…!」
これで全てが繋がった。加藤綾美の捜査を禁じたのも警視庁総監、加藤正剛の指示であった事、喜多の急な移送も、護送に俊介を指名してきた事も全て警視庁総監の指示によるものであった事が明確なった。
「お気持ちは分かります…。でも我々は組織で動いているんです。その組織を根底から狂わすような事をしてしまったあなたの責任は重大です!」
はっきりと言い放った静香。
「こ、こら皆川…」
慌てる島田。しかし静香は止まらない。
「あなたの身勝手な判断で新たな被害者が出てしまったんです!あなたは被害者になりうる人間をまざまざと被害者にしてしまったんです!警察のトップたる人間がするような事ではない!あなたは現実失格です!!」
後先考える冷静さなどなかった。静香は怒りに震えていた。
「君の言う通りだ。私の身勝手な判断で事件をますます深刻な状況へと導いてしまった…。娘を失う怖さがこんなに大きなものだなんて…。私は…、私はどうしたらいいんだろう…。」
もはや警視庁総監の威厳などどこにも感じられなかった。きっと自信も何も崩れ落ちてしまったのであろう。がっくりと肩を落とす警視庁総監が哀れに感じた。
「あなたは過ちを犯しましたが、犯罪を犯した訳ではありません。人生をやり直すのは大変だけど、幸い気を取り直す事さえすればいいんです。警視庁総監にまで登りつめたお方、そのぐらい容易い事でしょう。組織のトップが崩壊すれば全てが崩れ落ちてしまいます。私はその雪崩に巻き込まれるのは嫌です。私は立ち向かいます。」
静香は敬礼をして警視庁総監室を出て行った。慌てて島田も後に続く。エレベーターから降り外へ出ようとすると守衛に足止めされた。少ししてエレベーターから降りてきたのは加藤正剛、警視庁総監だった。
「すまなかった。もう大丈夫だ。我々は一丸となって君達のサポートに尽力することを約束する!事件解決へ共に闘おう!!」
静香と島田は精悍な表情をしながら力強く敬礼した。