The sickness of love-9
『ですが、僕は継がないとならないんですよね?』
渉は必死に冷静なフリをして、孝に問う。
『じゃあお前はどうしたいんだ。』
『自由にして下さい。』
孝は言葉が出なかった。
渉が今にも死にそうな顔をしていたから。
『今すぐとは言わない。とりあえず、お前の好きな高校に入りなさい。三年間で、社長になる意思を固めるんだ。』
孝は頭を抱えながら落ち込む。
『僕は誰と誰の子なんですか?』
中河原は葉巻に火をつけ、
『矢塚昭一と浅尾万里菜だ。』
渉の頭の中には矢塚と浅尾の顔が浮かぶ。
『本当のお父さんとお母さんは昔、最高知能指数歴代一位になった二人じゃないか。』
『だから、どうしても渉が欲しかったんだ。お前は昔から成績がいいのはお父さんとお母さんが頭が良いからなんだよ。』
『僕の価値はそれだけですか?』
『そんな訳無いだろう。だが、お前が社長になった暁には一生お金には困らないだろう。』
渉は何も言えなくなり、ただ孝の言葉が木霊した。
―僕は玩具…―
渉と言う人間は死んだように人が変わった。
幼馴染みが昔陰で言ってた言葉を思い出した。
『あいつ中身がないんだよ。金持ちは何もしなくても欲しいもの手にはいるからいいよな。』
そんな陰口をも家に帰る途中に思い出してしまい気分が悪くなった。
『俺は俺。きっと中河原は解ってくれる。逃げたりはしない。澪が居るから。俺は一人じゃない。』
家に入ると、義母の葉月が迎えてくれた。
『おかえりなさい。』
『ただいま…。』
久々に義母が迎えてくれた。
『渉、今日の食事会は六時からだからね。』
渉は義母を無視して部屋に向かう。
深い溜め息をつきながら。
制服から私服に着替えると、しばらくやめていた煙草に火を着け、窓を開けた。
そして、鞄から生徒手帳を出し、一番後ろのページを捲る。
『あれ?』
前入れた写真が違う写真になっている。
『なるほど…。澪もめざといなぁ。』
ニヤニヤ笑いながら煙草を吸う。
不思議と肝が座ってきた。
時計を見ると、午後六時。
写真の澪にキスをして、
『よし、中河原渉行って参ります。』
と敬礼をして部屋を出た。
食堂に着くと、孝と葉月はもう席に着いていた。
『義父さん。今日は僕の話を聞いてください。』
渉は椅子に座らずテーブルを挟んで目の前に居る孝に頭を下げた。
『聞いてやろう。』
孝はワインに手をつけながら言う。
『僕はこの会社を継ぐことは出来ません。』
真剣な目で孝に訴えた。
孝はゴホンと咳払いをすると、
『いきなり話が有ると言って来たと思ったらお前はどうして私に反抗ばかりするんだ。』
『義父さん。貴方は二年前と何も変わっていない。反抗?少しは僕の気持ちを考えて下さってもいいじゃないですか?僕にだって心はある。もう窮屈な貴方の玩具で居るの疲れました。もし僕をまだ縛る気で居るのでしたら、僕…死にます。』
渉はナイフを首に当て、少し引いた。
首からうっすら血が流れる。
『ま…待て、お前は何故中河原グループが嫌なんだ?』
孝は動揺を隠せない。
葉月は今にも心臓発作で倒れそうになっている。
『僕はあれから色々考えたんだけど、お金で買えない物をたくさん見てきた。義父さん知ってますか?僕は陰で屍とか金食いとか言われているんです。僕自身、今まで自分から何も欲しがった事ありますか?僕は友達が欲しかった。ただ中河原グループの息子なだけでどうしてこんなに辛い思いをしなければならない?義父さんは汚い仕事をしているからじゃないか?僕は…。』
渉は下を向いて、涙を流し、必死に訴えた。